この不都合なる世界~双魚書房通信(18) スティーヴン・グリーンブラット『暴君 シェイクスピアの政治学』~

グリーンブラットは贔屓の学者。新歴史主義の驍将としては『ルネサンスの自己成型』(高田茂樹訳、みすず書房)、シェイクスピア研究の本領発揮の『煉獄のハムレット』(未訳)といったところか。といってもがちがちの学者先生ではなくて、近くはピュリッツ…

ウォーかく戦えり

今月は誰がなんと言おうとウォーの『つわものども』(小山太一訳、白水社)。これは第二次世界大戦を舞台にした「名誉の剣」三部作の一作目。訳者あとがきを見て驚いたのだが、ウォーの邦訳は、『ヘレナ』のような愚作も含め、すべて読んでいたのだった。優…

素人包丁・月見の巻

一気に秋らしくなったので、今年の名月はそれらしく眺められたのではないでしょうか。もっとも、せまじきものは宮仕え、当日はあり合わせで酒を暖めた程度。その代わりに、二日遅れの月見料理、中秋の懐石ごっこで一人愉しんだ。 以下膳組の手控え。 【飯・…

ナは長月のナ

めっきり連句興行も少なくなった。消閑の手すさびに最近は俳句を作る。近作ふたつ。 野分してすぢりもぢりとこの列島 碧村 野分の朝叛徒等處刑せられたり ○花村萬月『帝国』(講談社) ○小沼丹『不思議なシマ氏』(幻戯書房)・・・たまにはこういう膝カック…

余は如何にして死体となりし乎

夏は怪談。というのも実はよく分からない結びつきながら、伝統は重んじるたちだから連休中はそれ関連のものばかり読んでいた。いくら名手・傑作揃いといっても、岡本綺堂あるいは内田百閒(その他色々)ばかりではやっぱり飽きてくるから、こういう時はアン…

うつせみ

最近は取りつかれたみたいに八戸ばかり。で、なんとなく青森の方はあっさりとした付き合いという感じだったが、今回は二軒もいい店に出会えた。一泊で二軒というのはかなりの打率ではないでしょうか。 一軒目は古川の市場近くにある立ち飲み屋『十七番』。こ…

うににまみれるうりに淫する~コロナに抗して孤独旅②~

前日の夜においたしなかった(ちょっとだけした)功徳で、朝早くから目覚める。これ幸いと市バスに飛び乗って陸奥湊駅へ。陸奥湊の朝といえば『みなと食堂』。あまりに有名すぎる店なので実は今まで敬して遠ざけていた。店前に行列が出来ているのも気ぶっせ…

我火星人なりせば~コロナに抗して孤独旅①~

えんぶり以来、ということは半年も経っていないのだけど、合間の大騒動を考えると随分久々という感じがする。 八戸駅からそのまま鮫駅まで乗り、バスで小舟渡まで。種差海岸で「いちばん海に近い食堂」として有名な『海席料理処 小舟渡』で昼食という心づも…

四国水族館に行ってきた

六時過ぎに家を出て、開館前に着いたはずだが、なんじゃこの長蛇の列は。当然館内も大混雑で、こりゃいつクラスターが出てもおかしくないわなと少々ビビりつつ回った・・・からという訳ではないが、もひとつ食い足りない。「○○の景」という展示(しかもサカ…

壺中天

某日 京都は北大路、『仁修樓』再訪。これだけの味を堪能出来るのなら、新快速で一時間(+地下鉄十五分+タクシー十分)はちっとも面倒だと思わない。 「紫美」と名の付いたこの日の献立以下の如し。 *凍冬瓜盆……蒸した冬瓜をくりぬいたところに、蟹身と鱶…

日没閉門

ある会合でご一緒した方が陽性と判明。ブログ子も二週間の自宅待機を余儀なくされた。さすがに夕景になっても呑みに出る訳にもゆかず、気分としては蟄居謹慎仰せ付けられた感じ。 テレワークをしていると、職場ではなんだかんだと体を動かしていたことに気づ…

双魚書房通信~奇人VS学究 川平敏文『徒然草』

『徒然草』と聞くと誰でもげんなりする。教科書古文の代表作だからである。著者は「そうでもないんですよ」と横に立って言う。その口調が、大上段にふりかぶる感じでもやたらと力んでる感じでもないのが好もしい。 川平さんは本来は近世文学の専家。江戸時代…

たつぷりと象の屁をひる日永かな

王子公園に出るついでがあったので、久々に動物園に寄ってみた。コロナ騒動で、屋内閉館のところが多いために入場無料。そこそこ親子連れでにぎわっていたのは慶賀すべきだが(帰りにはどこかのお店で食事していきましょう!)、熊のボーといい、レッサーパ…

門々より囃子のこゑ~えんぶり紀行(3)・了~

定宿の朝飯はせんべい汁も出てすこぶる充実している。普段ならゆっくりしたためるところ、この日はせんべい汁だけ啜って飛び出した。言うまでもなく新羅神社での奉納摺りに駆けつけるためである。 今のうちにえんぶりの基礎知識・用語をまとめておきましょう…

中休み、でも宴~八戸えんぶり紀行(2)~

【朝】 朝食の後、長者山新羅神社へ。ここは「八戸」えんぶり(八戸以外にもえんぶりの祭りはあります)の口切りとなるお宮。明日の本番前に参拝しておこうと足を向けた。社域までの坂道、亭々たる杉木立に気持ちが清められる。 本殿。まずはまた八戸に来ら…

鬼が笑う門~八戸えんぶり紀行(1)~

乗り継ぎが綺麗に決まって八戸の中心街に着いたのはちょうど時分どき。目当てにしていた天ぷらやは「土曜のランチはやってないんです」とのこと。まあ三泊するんだから一回くらいはこういうこともあるわな。次回の楽しみとしておきましょう。近くのレストラ…

洛北桃源郷

京都は北区の『仁修樓』会。待ちに待ったというところ。某年某所での『海月食堂』岩元シェフとのコラボイベント以来の大ファンである。独立して店を構えたら、とはつまり上岡誠さんが自分の心ゆくまで腕がふるえるところではどんな旨いものが出るのかと、思…

聖木酔日

久々にお客をした。お越し下さったのは木酔会(木曜の昼から呑みましょうという風雅な集まり)の皆様六名。かなり気合い入りました。献立は以下の如し。 (1)お通し(先吸)…蛤汁※酒をたっぷり入れ、調味はせず。蕗の薹を刻んで散らす。これは大阪・谷町の鮨…

えびす冷え

とは題してみたものの、それにしても本当に暖かい冬である。来月、八戸のえんぶり(豊年祈願の祭り)に行くのだが、小雪舞うなかを各組が一斉に摺る(えんぶりでは踊るとは言わない)壮麗な眺めが見られるかどうか、ちょっと不安。まあしかし、雪があっても…

新年のご挨拶を申し上げます。

庚子(かのえね)狂歌噴き上ぐるマグマは神火のエネルギー大山鳴動何出でんとす金の柄のうち出の小槌財寳のねずみ算にぞ増えるはつ夢 すっかり更新も滞っていますが、なんとか継続はして参るつもりでおります。 皆様のご多幸をお祈り申し上げます。 双魚庵主…

幻梅

呉春(別号松村月渓)は江戸時代の絵師。平安の産ながら、しばらく摂州池田に住んでいた。代表作のひとつ『白梅図屏風』は今までかけちがって見ることがかなわなかった。某日、出勤前の時間を使って逸翁美術館に足を向ける。 なんとなく銀泥地の紙に描かれて…

極寒の祭り

今、大きな「宿題」を抱えているので、旅行記をまとめる余裕はなし。今回も八戸・青森を堪能できたんだけどね。いい店を一軒ずつ発見。次はなんとか八戸えんぶり(寒のさなかに行う豊作祈願の祭り)の時に行きたい。 読書録もメモ書きだけ。○大石和欣『家の…

神無月の本

眼精疲労なのか視力の減退なのか、ともかく本当に冊数がいけなくなった。 ○谷川健一『選民の異神と芸能』(河出書房新社)○川村湊『闇の摩多羅神』(河出書房新社)・・・このところマタラ神なる異様な神が気になって仕方ない。①外来の神である、②念仏修行の…

平野ぐらし

三連休も基本的に家居。来週と再来週はお出かけ・旅行と続くので出控える。 何度か書いたが、出勤の都合で最近はきっちり時間を取って料理することがむつかしい。初日はこの欲求不満を晴らすために、朝から元町・湊川へ買い出しに行き、小半日かけて自分一人…

漬け物をかめばしづまる秋の水

不思議に思うのは、夢がなぜあんなに劇的物語的な内容展開を持つんだろうかということ。日常の風景・人間関係とまったく関係ない話だもんなあ。しかも目覚めてから我と我が構想力に感心したりもするし。根元的な物語乃至虚構欲求があるということか。こうい…

パンチ&ジュディ

ここに来てややバテ気味・・・夏痩せではなく、8月29日(ヤキニクの日)から三連チャンの焼肉パーチーによる肉食傷というのでもない。 六月からずっと遅番のシフトが続いており、家事全般・買い出しには精励恪勤なる主夫(兼勤め人)としてはかなりストレス…

北へ南へ

【北篇】 草津のビストロ『ロンロヌマン』さん、と書いたのではいかにも他人行儀の感じがする。前田卓也シェフのファンとしては「前ちゃんの店」という認識。今回も堪能しました。 ○前菜1:野菜三種。①マッシュルームのサラダ・・・キノコは生。チーズとヴィ…

忍び寄るもの

呑んで帰った時、マンションの階段で転倒、二週間ほど矢吹ジョーないしお岩様のように左目周りが腫れていた。それから一月ほど、激しい雨音に目を覚まし、居間の窓を閉めに行く途中、突然気を失って倒れた(数分意識がなかったようだ)。このときは膝をうっ…

本当にメモ

梅雨入り前の風は本当に気持ちがいい。昼酒呑んで川ばたを歩いて帰る時などは特に。 最近読んだ本。このところ色々弱り気味なので、いつも以上に無愛想なメモとなる。 ○柄谷行人『世界史の実験』(岩波新書) ○山泰幸『江戸の思想闘争』(角川選書) ○村上春…

市中の大人(たいじん)~追悼 田辺聖子

たとえば『道頓堀の雨に別れて以来なり』でもいい。ひとまずは川柳作家・岸本水府の評伝である。「ひとまず」というのは、水府個人の人生の足跡を辿るにとどまらず、大阪そして日本全体の同時代の川柳界の動きをあやまたずとらえ、そこから近代川柳史のみあ…