もとぶら

  連休だけあって、元町商店街は昼前から観光客でいっぱいだった。

  みなさん、どうぞ神戸でお金を落としていって下さい。

  さて、地元の人間が混むと分かっているところに出かけたには訳がある。元町にある海文堂(素晴らしい書店)で古本市が開催中なのだ。ちなみに言っておくと、海文堂は歴とした新刊書店である。 料理関係の文献数冊の他、吉岡実「夏の宴」を贖う。
  二階の会場から下に降りたところで、『海文堂店長の蔵書一挙大放出セール』という催し(?)をしている。なんだこりゃ。まことにケッタイな本屋なりけりと思いつつ覗いてみると、小松左京の「青春記」、小林信彦「60年代日記」、森敦「わが青春わが放浪」などが見つかる(百円均一)。
  古本にも蔵書印やら葉書やら、前の持ち主の《痕跡》を示す物的証拠は色々あるが、特定の個人の、しかも存命の人物のと知りながら本を買うのは初めて。奇妙な気分である。
  昼は近くの「卓」で天ざると酒。初夏らしい陽気の上、昼酒ともあって余計に効く。ふわーっとした心地のまま、まさしくもとぶら。新茶と器(汁椀)を買って帰宅した。

  晩までひたすら読書。いい加減つかれたので、夕飯は手を抜いてどこかで食べることにする。つもりだったが、連休のこととて開けていない店は多いし、開いている店は家族連れか観光客でいっぱい。
  こうなりゃ意地でも外食シテヤルと一時間以上さまよったあげく、ようやく神戸駅近くの店に入る。入る前からなあんか嫌な予感はしていたが、喉がカラカラで生ビールの誘惑に堪えかねたのである。
  直観信ずべし。何を食べても、はっ、となるようなまずさであった。しかし、まあ良いのである。観光客の皆様、神戸の旨いお店でたんとお金を落として下さい。
  とはいえ、このまま帰って寝たのでは悪夢を見かねない(ぐらいのまずさであった)。新茶と到来物のカラスミでお茶漬け。おいしかった。