芳醇なるもの

  日中はいくら暑くてもしょせんは死にゆく夏の虚勢、三時くらいをすぎた太陽は、恨みがましい光線を放ち、その分だけ“没落”の印象を灼きつけるだけであった・・・・。

  十年ぶり(?)にスティーヴン・キングの『呪われた町』を読み返してみると、ストーリー・テイリングの巧さと圧倒的な描写力(小林信彦瀬戸川猛資さえ手放しで賞賛するしかなかった)に加え、《いわゆる大都市》近郊の田舎町が、よその住民に気づかれることなく崩壊してゆくプロセスがやけにリアルで、読後しばらく動けずにいた。
 
  まあ、前日はバルザックの『暗黒事件』に没頭していたしね、さすがに夕飯を作る気力もなく、日没と同時に、吸血鬼さながら町を徘徊し、近くの寿司屋「N」に入る。

  おとおし 甘藷としめじの煮付け、松茸と菊花とほうれん草と薄揚げのお浸し
  つくり  障泥烏賊、さわら、あぶらめ、赤貝
  焼き物  天然うなぎ(白焼きとたれ焼き)
  酢の物  かにとめかぶ、もずく
  鮨    十貫

  正直、ろくな食べ物やの無いところながら、鮨やはなぜか名店といわれる店が多い。東山の市場が近いせいだけとも思えないが。