冬ごもり

  再度筋の懐石「山荷葉」再訪。

  例のミシュラン騒動で、ずいぶん混雑してるだろうから、と思ってだいぶ間をおいたのだが、この日(土曜日の晩)もテーブル席は一杯。ご主人の板垣さんいわく「十二月になってからいよいよバクハツしてます」とのこと。まあ、こちらは一人でカウンターだったから何とか入れたようなものか。

  献立は以下の如し。

先付 あん肝豆腐
煮物 蟹真蒸、椎茸、三度豆、柚子
造り 平目、鯛
八寸 車海老、明石蛸桜煮、糸もずく、鱈白子(焼いて皮をむいたパプリカ添え)、カステラ、干し柿
強肴 松葉蟹、烏賊塩辛黒造り
蓋物 揚げ豆腐、鴨丸
汁  湯葉白味噌
飯  香の物
水菓子 洋梨、柿
菓子 亀山
抹茶

後半少し料理のペースが速くて、落ち着いて呑めなかったのが残念(酒は「立山」の純米吟醸)。あと、コースの中に焼き物は入ってないのかな。

  「仕込みがすべてはけるのが何よりも嬉しい」、とこれもご主人。

  魚が旨い寒の内にまた行きます。

  「山荷葉」に行く前、昼間は久々に大阪に出ていた。阪急梅田駅下の紀伊国屋に入るのも何年ぶりか。じっくり吟味したいところだけど、時間に余裕がなかったので、人文書のコーナーをざっと見て回ったあとは岩波文庫のコーナーに直行。プルースト失われた時を求めて』の新訳(吉川一義)第一巻が発売になっているのだ。井上究一郎ちくま文庫)、鈴木道彦(集英社文庫)に続いて、三回目の個人全訳である。英語圏のことは、よく分からないが、いまだにスコット=モンクリフ訳が流布しているのではないか。エドマンド・ウィルソンの指摘するとおり、日本人のプルースト好きは、やはり世界的にも顕著な現象と見るべきなのだろう。

  むつかしい理屈はやめにして、今度の新訳、なかなかいい感じです。井上訳がいわば微熱に浮かされたような、詩的な味を中心にしていたのに対し、「的確に物語る語り手」としての相貌が明らかにした訳文といおうか、精密でしかも端正な日本語。思わず半分ほど読み進めてしまって損をした。

  年末から正月にかけての休みに堪能しようと思っていたからだ。一冊読み上げてしまうと、二冊目が無いので、欲求不満がたまりそう。

  もっとも、U.エーコの『バウドリーノ』上下や劉一達の『乾隆帝の幻玉』など、《冬ごもり》のための準備は着々と進んでいる。むろん、対手となる酒も、清酒・ワイン・シェリーと色々取りそろえております。

  酒・本・肴でこそ理想の「寝正月」。最後の肴にあたるおせち料理の細目はまた年明けに書く予定。