寒波の明暗

 商売繁盛の神であるエビスの祭り(一月中旬)のあたりは、皮肉なことだが、もっとも商売が暇な時期だという。まして、今年のような記録的な寒波が襲来していたら、食べ物屋はすっかり冷え込んでいるのでは・・・と思いきや、きくところによると意外とそうでもないらしい。冬はやはり冬らしく寒いのがいい、ということか。
 
 寒波が幸いしたのは寒鰤漁。例年の四〇〇(!!)倍もとれているらしい。同じく代表的な冬の魚でありながら、鱈は逆に不漁だそうな。もっとも、関西に生まれ育った人間としては、鰤はともかく、鱈にはあまり馴染みがない。
 
 ここで思い出すのが石川・能登は七尾の町中にある寿司屋でたべた鱈のこと。たしか兄弟でやっている店だった。鰤もさすがに関西とは品が違う。あぶらの匂いの馥郁たること、今こうして書いていても生唾がわいてくる。あとは穴水の牡蠣も、海鼠もみな旨かったが、なかんづくすばらしかったのが生の鱈。ふうわりしていて、上品な甘みがあって、まるで上等の洋菓子のよう。たしか夏にいった時には、大好物の蝦蛄のにぎりだけで弁当を作ってもらい、帰りの電車で堪能したっけ。
 
 ・・・次の休みにでもいってみるべいか。
 
 鰤が豊漁ときくと、偏屈な性分で、店でも注文したくなくなる。先日北野坂『朱ZAKU』で呑んだ時には、「いい鰤ありますよ」と勧められておきながら、それを断り、おこぜ・飯蛸・真魚鰹を注文する。この日の献立は次の通り。

たいらぎの炙りの酢のもの。生雲丹入りの茶碗蒸し。おこぜ薄造り。真魚鰹造り。飯蛸煮もの。おこぜちり蒸し。粕汁

 
 このうち、絶品は飯蛸。中はほとんど生、飯のねっちり、外側はコリコリ、その歯触りの対照の妙。それに煮汁が甘くないのもよかった。粕汁の具は鯨。品があって、でも鯨だけに少ししつこくて、そのくせやっぱり後味はあっさりしていて、酒の下物として最高。 
 
 飯蛸の旬は春。厳冬ながら少しずつ春に向かっているのだ。寒さ好きとしてはいささか残念だけれど。