この気まぐれな暴君

  先日テレビで、海洋冒険家の白石康次郎氏が語っていた。ドビュッシー交響詩『海』が好きだという氏がその理由としてあげていたのは、「海は冷たくきまぐれで残酷な存在だと示している」ということだった。

  明治から昭和にかけての作家・幸田露伴に、「水の性は暴なり」という言があったとも記憶する。たしか娘・幸田文のぞうきんの絞りようが乱雑だと戒めた言葉だったが、何気ない日常の事象のなかにも天地の理法を感得することが出来る、近代日本にはまれな宇宙的感性の持ち主でもあり、かつ「水」というエレメントに深甚なる興味を寄せていた(随筆に「談水」その他、小説に「幻談」がある)露伴のことだから、これは水一般を貫く《性》を喝破した表現とみていいだろう。


  津波に命を落とした方々のご冥福を、心から祈る。