掘り出しの古本をめっけただの、市場で魚が安かっただのという記事ばかりでどこまで保つんかいな・・・とは書いてる本人が一番懸念していたところである。
とまれこうして「鯨飲馬読記」が無事一年を迎えられるのも、読んでくだすっているみなさんのおかげ。ふだん近しい人から「読んでるよ」と言われるのもはげみ、そしてぼくが知らない土地で知らない方が読んでくれている(人もいると思いたい)と思うのもはげみです。
励んで書くほどの硬派な内容ではないけど。
さて桜は咲いたがあいにくの雨。でもたまたま休日のこちらとしては、雨の音を家の中で聴いてすこぶるのんびりできた。
昼ご飯はココアとヨーグルトだけだったので四時頃にはもう腹が減ってしかたがない。久々に「鯛屋」に仕込みに行くことにする。
この時期だから、まずはやはり鯛。天然物のかぶとが安かったので買う。あとは鰆の子。帰りがけに八百屋で兵庫豌豆(絹さやのこと)とわらびも買う。
で、献立。
鯛の骨蒸し(豆腐と椎茸をそえて。大根おろしとポン酢醤油で食う)、鰆の子と高野豆腐と兵庫豌豆の炊き合わせ。わらびの二杯酢。ニラのぬた。
すこし冷えてきたので熱燗にした。合いの手は『「京味」の十二か月』(文藝春秋)。新橋の名店、「京味」の月毎の献立を紹介し、それをめぐっての主人の西健一郎さんと作家の平岩弓枝さんの対談が附く。
食べ物の本を読みながら食事するのはあまりいい趣味ではないかも知れないが、ともかくこれがやめられない。季節とりどりの趣を大事にした料理の写真も素晴らしいし、何よりこれぞ玄人、料理人が作る料理とうならざるを得ない一品が多くて、献立を読んでいるだけで猛然と想像力が刺戟される。すなわち酒が進む。
二、三そうした「玄人料理」を紹介すると・・・
・餅唐墨(「焼いて薄く伸ばした杵つき餅で、自家製からすみを包んだ小さな手毬風の酒肴」)
・かぶら福煮(「枡形にむいた近江蕪に、大きさを揃えた煮大豆、蒸し鮑、ゆでて軽く焚いた車海老を盛る」)
・干し柿黄身寿司(「ゆで玉子の黄身を土佐酢でのばしてなめらかにし、干し柿で包んだ甘めの珍味」)
他にも「鉄皮茄子」(とらふぐの皮をほしたもので茄子を巻く)とか、「菱蟹菊花糝薯」とか、全部書き写したくなってくる。
むろんこうした絶品(だろうと思う、「京味」には行ったことはないが)の足下にもおよぶまいが、ぼくも時分(誤記にあらず)なりの料理を工夫して食膳をにぎわせよう、と決意し、また銚子を空にするのであった。
意気軒昂になって三宮に繰り出すのも例の如し。つまり一年たってもパターンはおなじ。