文庫の本分

 老舗をほめるのは藝がないともいえるけれど、今月の岩波文庫のラインナップは見事というしかない。早速三宮のジュンク堂におもむいて、『柳宗元詩選』『幸福の探求』『失われた時を求めて2』を買う。(ボルヘス『七つの夜』は単行本で持っている。)


 柳宗元の詩集は同文庫の、李賀・李商隠・杜牧・蘇東坡につづく企画の一冊とみてよいのだろうが、それにしてもよく光を当てて下さった、と感謝したくなる人選。中国的山水とは如何なるものなるや。などとしちめんどくさいことを考えずとも、酒杯の合間に最適の相手と期待している。


 『幸福の探求』はイギリス十八世紀(十八世紀!)文壇の大立者サミュエル・ジョンソンの唯一の小説。今まで世界文学全集だとか名作選だとかいった叢書におさめられたことが無かった作。こういう選択眼あってこそ、文庫の意義があろうというものである。

 
 岩波にカネもらってるわけではありませんよ。他の文庫、および一時の岩波文庫の退嬰ぶりを顧みれば、読書好きは提灯をもつ義務もあるだろうと取り上げた次第。