芹の周りに

  寒い寒いといいながら、やはり春だなあと思った。スーパーで、大好物の芹がかなり安くなってきておる。辰巳浜子によれば芹は「二月一杯」らしいのだが今年は名残どころか、そもそも走りの芹も見なかったような気がする。

  さて、安いとはいえ貴重なこの芹をどのように料るべきか。赤貝と芹を胡麻酢で和えたのは自慢の一品だが(当ブログで一度書いた)、そうするとどうしても赤貝が主役になってしまう。もう少し控えめな素材と取り合わせて・・・と考えたのが、

*芹が主役の白和え→《下ごしらえ》薄揚げは軽く炙ったあと、ごく細く刻む。こんにゃくはアク抜きのあと、微塵にして薄口の出汁で炊いておく。鳥胸肉は酒蒸しのあと、手で細く裂き、蒸し汁に浸けておく。和え衣は豆腐をすり鉢でねっちり擂ったものに、練り胡麻・マヨネーズ(ちょっぴり)・辛子(好みで)・酢(少し効かせます)を混ぜたもの。水が出ないように、食べる直前にさっくり和える。
*こんにゃくのステーキ→上記白和えの残りのこんにゃくを活用。隠し包丁を細かく入れてから、胡麻油でじっくり焼いた後、酒と上記蒸し鶏の汁をかけて少し煮詰め、仕上げに削り節とポン酢をかける。
*鯖の富貴焼き→真っ白にならないほどに酢で〆た鯖(もちろんあらかじめ塩をふって水出しはしてます)を炙り焼きにする。生姜のしぼり汁と味醂、卵黄で伸ばした赤味噌を塗りながら。仕上げには気取って黒ごまを振る。付け合わせは小松菜。
*鰯の清汁→鰯は手でさばけるほどの大きさのものがちょうどいい。骨を外した身を酒を三割まぜた昆布出汁でさっとゆでて、塩を中心に味付けし、薄口醤油はかすかに香り付けするほどにたらして、刻み葱(関西に住んでるから青葱を使うけど、白葱でも充分美味しいです)と山椒をふるだけ。陳皮(ミカンの皮を刻んで干したもの)があればなおよし。
*若菜寿司→普段は米のメシを夕飯には摂らないが、弁当用に作ったものを少しつまむ。酢飯にしらす(ここは関西のちりめんじゃこでないほうがよい)(好きなのはちりめんじゃこのほうだが)と干し椎茸の甘煮と菜の花の塩茹でを刻んだものを混ぜるだけ。めんどくさいが錦糸卵はやはりのせたほうが華やかでよろしい。

 「日本ブログ村」では「男の料理」なるカテゴリーに登録しているが、とくに「男の」とする根拠もないわなあ。「(三十代独身)男がする」料理、とでもご理解ください。

  対手はジョージ・オーウェル『一杯のおいしい紅茶』(小野寺健訳、朔北社)。タイトルどおり、身辺のあれこれに即して語ったいかにもイギリスらしい、頑固一徹な(度し難いともいえる)経験主義的エッセイ。『象を撃つ』の作家というイメージで読むとかなりの落差に驚く。政治的エッセイの重石として貴重な一冊(戦争や圧政、資本主義の歪みを相手取って書かれた、あの苛烈にして明晰なエッセイ群が重石ではないことに注意)。アンソニー・ポウエルと親交があったというのは初耳の伝記的細部。今、たまたまヘンリー・ミラーロレンス・ダレルの往復書簡集も読んでいる。ミラーとオーウェルとはいわば論敵だった。今までは政治的対立かなと安易に考えていたけれど、ポウエルのような作家(つまりいかにもブルジョワ的ということ)と、どこか文学的に相通じるものがあったのかな、と思う。むろん酔っ払っているのでそれ以上は考察進まず。宿題にしておこう、と考えてまた呑む。

  二冊目は小倉和夫『名作から創るフランス料理』(かまくら春秋社)。元駐仏大使が、フランス文学の名作に出て来る料理を再現・・・ときくとゴキゲンな本だと思うでしょう(この場合のゴキゲンはむろん読者がゴキゲンなのではなく、著者一人がゴキゲンという意味である)。自分もそう思った。でも、結果としてはまずまずの拾いものではあった。予想されるほど嫌味な本ではない(ただし巻末の座談会は飛ばすべし)。作品の読みを深めるために料理(食べ物)を用いるという方法は、以前から興味をもっていた。この本も単にレシピの再現にとどまらず、料理から作品へと逆照射する視点があるのは読み応えのある点である。ただその視線が、ともすれば○○は△△の象徴なり、というあまりに素朴(というか粗雑というか)な反映論のレベルとどまっているのが遺憾であった。文学者ではないから当然といえば当然なのだが。

  にしても、こういう本が成立してしまうのがフランス料理・フランス文学の、正直に言って羨ましいところである。こちらの専門の江戸文学で、いちどそういうアンソロジー(批評付き)を企てたものの、材料不足で断念せざるをえなかった、という経緯がある。

  各国料理の百花繚乱たる(この形容も古いか)現代の日本ならば、料理=食事=食べ物という文化が単なるカタログ的羅列に終わらず、文学の生理と深く結びついているような作品も産み出されているのかもしれない。

 でも現代日本の小説というやつ、一向に食欲がわかなくてねえ。


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