ロマンチックなる酒

  酒(これはアルコール入りの飲料という意味)はいつでも美味しくいただくが、酒(これは清酒を言う)はやはり寒いうちがいちばん風情があってよろしい。もうお彼岸前という時季でも余寒というかどうか、知らないがともかく暮れ方からの冷え込みに乗じて『播州地酒 ひの』にて呑んだ。

  ここは『はんなり祗園』の大将に教えてもらって、贔屓にしている。単なる義理や営業で紹介するような不心得な店は格別、やっぱり自分が信頼する店の人が紹介してくれたところは安心して呑むことが出来ます。

  ひの、といえばセットのように名前があがるポテサラ(実に豪勢。また濃口の酒と不思議によく合う)や自家製シューマイ(肉がコツンと歯にあたるのが嬉しい)、菜の花辛子和え、厚揚げ(揚げたて)などで呑む。いつかどこかの宿で感心した『安兵衛』という銘柄があったので嬉しかった。

  こういう店で朝からずっと呑んでいたい。好きな作家の小品も肴にして、酔っ払ったら卓席の椅子にひっくりかえってしばらく寝て、起き上がるとまた飲み出す。

  もちろん『ひの』ではそんな行儀の悪いことはさせてくれないが(でも一度お願いしてみようか)、広い日本、どこかに自分の桃源郷にあたる店は存在するはずである。

  仕事も愛する熱帯魚たちも熱中しているスイミングも何もかもふりすてて、漂泊したいという強烈な衝動にかられるのはこういう時、よくせき意地汚い人間なんですな。

  衝動を鎮めるためにまた呑むわけだけど。本日の肴は手羽先と豆苗の炒め物(豆豉醤を主に味付け)、塩辛ポテトでした。
  
◎読んだ本
・村本幸司『人はなぜ騙すのか―狡智の文化史』(岩波書店)。→日本中世史の専家が、中国や古代ギリシャにも例をもとめて狡智という心性のありかたを探った本、と紹介されていたので、興味津々だったがイマイチ薄味。狡智を主題とした説話総まくりにしてはかいなでの感を否めないし、理論的な追求の切っ先が鋭いともいいかねる。こういう本で「トリックスター」のような概念を持ち出すのは、やや常套の感あり。
・リューディガー・ザフランスキー『ロマン主義:あるドイツ的な事件』(叢書ウニベルシタス)。『ニーチェ』や『ハイデガー』の、リーダブルな伝記(これは貶めていうのではない)の作者としてつとに名高い著者によるドイツ・ロマン派の、まあこれはやはり概説書ということになるんでしょうな。手練れの話術でもってこの奇怪な文学運動の大勢を説き来たり、説き去るという趣き。訳者によるとこの本、ドイツではベストセラーになったとか。さもありなんと思わせる手際の良さである。ただ、この本だけではロマン主義の《毒》の要素はあまり感じられない。対照させるつもりで、久々に書庫からハイネの『ドイツ・ロマン派』『ドイツの宗教と哲学の歴史によせて』を取り出す。いやあそれこそ毒液たっぷりで面白いなあ。ハイネは詩人よりパンフレティアーとしての才能のほうにめぐまれていたのではないか。

※ランキングに参加しています。下記バナーのクリックをお願いします!
にほんブログ村 料理ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 料理ブログ 男の料理へ
にほんブログ村
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村