夏のレシピ その2

梅雨明けしたかと思うと雷雨続きとはどういうことだ。責任者出てこい。

 スイミング帰りに市場に寄る。久々に魚づくしで行きたいねえと思っていたので、天然ハマチの半身、蛤(国産)、とびあら、焼き穴子をもとめる。

 ハマチは半分は刺身。『吉兆』の湯木貞一さんがその著書で、夏の献立にやたらとハマチを用いていたのに「?」という気持ちだったが、養殖モノの脂ぎとぎとでないハマチはたしかに香りも快く、旨い。山葵と夏大根の辛い大根おろしを薬味に。残り半分は酒・味醂・醤油に浸けておいて明日茶漬けで食うつもり。

 蛤は吸物。芸がないともいえるが、ま、これがいちばん旨いので仕方ない。

 とびあらは唐揚げ。からっと揚げても頭のところをかみしめるとミソがちゅっと出て来るところがこたえられません。

 焼き穴子は焙り直して、茗荷・胡瓜の細打ちと二杯酢で和え、山葵と海苔をのせて。

 今日はどれも出来がよかったので、気分のいいままに、ビール、冷酒、焼酎と《コース》一周する。酒を呑みながら桂米朝師匠の「鴻池の犬」を聴く。クロ、という大阪今橋の鴻池家で飼われている犬が、生き別れた弟犬に出会い、ご馳走を食べさせる場面で、「ハマチの半身」が出て来る。遠慮する弟犬に、クロ曰く「ええ、ええ、食うとけ。わし、こんなもん喰いあきとるんやさかい」。わしは犬以下かい、と笑う。ま、「日本一の金満家」の飼い犬とでは勝負にならんか。

 早い目に始めたので、食べ終えて茶を飲んでもまだ時間はたっぷり。この一週間は色々な本を同時並行でつまみ食いしていたので、それらを一気に片付ける。

井上ひさし『一週間』:生前に完結した最後の小説(まだ加筆する予定だったらしいけど)。月曜から日曜まで、一日一章の仕立てで、後に進むほど短くなっていく。最後の日は多分あの一行だろうな、と容易に予測がつく。だからつまらないというわけではない。それにしても、関東軍シベリア抑留というテーマ、実に暗澹たるもの。
*ジャン・モリス『ヴェネツィア帝国への旅』:「共和国」ではなく、「帝国」である。つまりヴェネツィア本土ではなく、地中海に広がったその植民地を巡歴するという仕立ての本。計算高さと放恣さ、圧政と享楽との奇妙な同居を描き出すきびきびした叙述がいい。この人の他の本も読んでみたくなった。
トマス・ピンチョン『V.』(の上巻):新訳が出たのを機会に読み直して・・・というより初めて読んだといったほうがいいんだろうな(それくらい前の訳とは相性が悪く、すぐに放り出してしまったのだ)。いやあ、実に面白い。ピンチョン、好きな作家になりそうである。まだまだ未読の作品がある。夏はどっぷりはまるつもり。
*西川恵『饗宴外交』:ま、タイトル通りの本。文章にもとくに奇なるところを見ない。著者は毎日新聞編集委員の由。それにしてもやはり、新聞記者の書く本は肌に合わん(当ブログ「あまくち からくち」項ご参照)。内容とは関係ないが、「皇后様」「皇太子様」という呼び方には違和感をおぼえる。当方、格別に皇室崇拝家というつもりはないが、「皇后」なら「皇后」、でなければ「皇后陛下」ときちんと敬称はつかったほうがいい。猫なで声で《明るい・開かれた皇室》を無意識に演出しようとしているのか。たんに表現に無頓着なだけか。いずれにせよ気色悪いいいかたではある。
*『日本思想史講座1 古代』:日本思想史の、共著形式による通史は久々だそうな。見たところ、かなりスタンダードな叙述のようである。こちらの守備領域にはまる本なので、他の時代を扱った巻も読んでから詳しく感想を述べたい。


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