また夏料理です・・・

 スーパーで「かまじゃこ」なる魚を見た。体長は五センチくらい。食う魚ではないが、熱帯魚のブラックネオンテトラほどの大きさである。目が大きく、銀白色の体一面に灰色のたて縞がはしっている。聞いたことのない名ながら、なぜか知ってるような気がして買ってみた。

 買ったはいいが、これどうやって食おう。スーパーの説明では唐揚げに最適としていたが、そしてたしかに揚げるのによさそうな風体ではあるが、我が心に感じた一抹のなつかしさとしっくりこない。

 なんでもインターネットで調べてわかった気になるのは味気ないことと思いつつも、せっかく買った食材を無駄にはしたくないので、「ぼうすコンニャク」というお気に入りサイトで検索してみる。ちなみに、魚の記事を読むなら、ここと「魚屋三代目日記」というサイトがおすすめです。後者はすでに超人気ブロガーの方らしい。

 あったあった。しかしテンジクダイという名前で出ている。聞き覚えがないなあと思ってさらに記事を読んでいくと「ねぶと」ともある。せやせや。これこれ。ちっちゃい時は、たしか水茄子(母方の実家が泉州にあった)とこれとを炊いたやつを食べさせられていたのではないか。※書きながら気付いたが、この「かまじゃこ」という呼び名はおそらく「こまんじゃこ」、つまり小さい雑魚がなまったものだろう。つまりもともと名前らしい名前はないのである。

 さっそく再現してプルースト的郷愁にひたってみたかったものの、水茄子が売ってなかったので、唐揚げと天ぷら(とは上方の用法で、さつま揚げのように、魚肉を練ったのを揚げたものです。東京ではなんと呼んでるのか)で食べることにする。

 唐揚げは何にも味付けせずに片栗粉だけまぶして揚げる。小味がきいていてよろしい。頭のなかに固いウロコのようなもの(耳石だそうな)があって、それがやや舌に障るだけで、ビールのアテには申し分ない。

 天ぷらは頭を切り落とし、あとは細かく叩いたあと、フードプロセッサだと粉っぽくなってよろしくないので、すり鉢でする。味付けは塩のみ。片栗粉と卵白を少々つなぎに入れて揚げる。

 鰯のつみれほど濃厚ではないが、軽くて上品な味。これもビールにはもってこいだな。こういう、訳の分からん小魚というのが、土地で食えば一等旨いのだろうけど、最近はどの地方に旅をしても、居酒屋で出すのは定番の観光名物か似たりよったりの新商品(今ならさしづめ塩麹を用いた料理というところ)ばかりでつまらないことおびただしい。などと憂いつつ、油を使ったついでに茄子と獅子唐も揚げ出し(大根おろしをたっぷり添える)にして呑む。

呑んだあとは三宮に繰り出す。たびたび登場している友人のりょうの店で7周年のパーティーをやっているのである。常連客や久々のなつかしい客に囲まれてりょうはとても嬉しそうだった。どれだけがんばって店を守ってきたか知ってるこちらとしても、この子が喜んでいるのを見るのは嬉しい。

さて、この一週間で読んだ本。
*ジャン・モリス『わたしのウェールズ、わたしの家 旅行作家の帰る場所』:前に紹介した『ヴェネツィア帝国への旅』の著者。ウェールズ人とは知らなんだ。もちろんウェールズ人の例にもれずこの人も熱烈な愛国者であるが、この本の記述で判断する限り、正直ウェールズという風土が一般的な意味で魅力的であるとは思えない(著者もそれは認めている)。しかし、荒涼とした、人を寄せつけないような土地風土に魅惑される、執着をおぼえるという心情には無条件に共感できる。少なくとも意識の上では、典型的な《メリー・イングランド》のよく手入れされた穏やかな田園風景に強く惹かれるのだがね。自分の中でどういう深層心理が働いているのか、さっぱりわからない。

森正人『英国風景の変貌 恐怖の森から美の風景へ』:モリスの本のいわば副読本として読んだ。全体としての出来は、著者自身が後書きで書いているように、二次資料にも依拠した概説書ということになるのだろうが、湖水地方の景観が新興階級を教導するツールとして考えられていたこととか、海水浴の位置付けとか、勉強になった点もあり。副題にある「恐怖の森」の叙述がほとんどなかったのが残念。それにしても著者は当方の二歳下である。えらくトシをとった気になった。

トマス・ピンチョン『V.』(下巻):下巻に入ってますます愉しんで読めた。見返しにある紹介では、この作品で一気にピンチョンは「ポスト・モダン文学の旗手」の地位に押し上げられたそうだが、エピソードの豊穣さといい、骨太な物語性といい(どこが難解なのかが分からない。複雑というなら認めるが)、語り口の悠々たる風格といい、貧血性にこましゃくれたいわゆるポスト・モダン文学とは決定的に質が異なるように思えてならない。ま、批評家・学者の評価はさておき、次は『ヴァインランド』に取りつく予定です。

*『西洋哲学史Ⅳ ポスト・モダンの前に』(講談社選書メチエ):当方にとって個人的にいちばん興味がある、近代直前(バロックくらい)の時代の哲学史。この時期にヘレニズム哲学という、誤解を恐れずにいえば二流の思想の復興があったということを教えられた。やっぱりなあ。プラトンアリストテレスといった超弩級の大物がすぐに「ルネサンス」して流布するはずはないのだ(という偏見がある)。

*フランク・シェッツィング『知られざる宇宙 海の中のタイムトラベル』:理系の啓蒙書にありがちな、サービス過剰の文章を除けば面白く読めた。ダンクルオステウスという、やたらと図体のでかい板皮類の魚が格好いいいような、マヌケなような感じで好きになった。

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