何度も何度も書いたことだが、昨年から連句に熱中している。仲間は四人。今までに四巻の歌仙を巻き上げているにも関わらず、まだ一度も全員が同座しての興行をしていなかった。
山口や福岡の大学に勤める連衆もいるから仕方ないとはいえ、やはり淋しいものである。そう感じていたところ、今週末に神戸大学での学会参加のためにこのお二人が来神することとなった。好機逸すべからず。当方のマンションで連句会を開催した。
六時から始まったのだけど、主人役は仕事で二時間の遅参。鍵を預けている後輩に準備をお願いしていた。「鯨飲馬読」ブログとしてはまず、こちらが用意した肴から記しておかねば。
【かもうり水晶煮】夏の定番料理ですな。かもうり(冬瓜)は大きめに切り、皮を剥いたあと丁寧に面取りして(でないと煮くずれがひどい)、柔らかくなるまで塩湯で茹でておく。かもうり自体には味がないので、鶏や豚など濃厚な出汁を出る素材とよく合う。今回は鰹・昆布の出汁に加え、鶏ミンチを使用。ミンチを出汁に入れて、沸き立たないように煮込み(濁らせないように)、アクをきれいにとる。冷やして食べるので、脂分も除けておいたほうがよろしい。あ、ミンチはダマにならないように泡立て器などでよく混ぜましょう。出汁がひけたらおかあげしておいたかもうりを投入。まずは味をつけないままに十分、次に味醂(当方の料理としてはかなり)多めに入れてさらに十分、最後に塩・薄口醤油で味を調えて一煮立ち。鍋ごと冷まして味を吸わせます。かもうりだけを取り出したら、出汁をもう一度沸かし、葛をひいてとろみをつけ、また冷ます。冷たさが身上の料理ですから、よく冷やしましょう。食べるときにはすり生姜、または青柚の皮をおろしたものを散らして。
【利休和え】とは要するに胡麻和えのこと。夏野菜(胡瓜・茗荷・茄子・新蓮根・ピーマン)を用いる。胡麻は黒胡麻。ねちっとなる直前まで擂っておき、そこに赤味噌(仙台味噌のような、甘味の少ないものを)と煮切った酒、鰹出汁少々を入れる。野菜の下ごしらえは、胡瓜は縦四ツ割の後、小指の先ほどの長さに切って、立塩しておく。茗荷は横に(輪になるように)刻む。茄子は焼き茄子を作る要領で。冷まして皮を剥き、一口大に切る(汁を逃さないように)。蓮根。小さめ乱切りののち、塩湯で柔らかくなるまで(でもうっすらと歯ごたえを残して)下茹でし、おかあげして冷ます。ピーマンは縦にうんと薄く刻む(獅子唐でもよい)。少しトシをとって気が長くなったせいか、こういう下ごしらえを丁寧にすることが以前ほど面倒でなくなってきつつある。作った当人としてはこの胡麻和えの出来がいちばんよかったように思う。
【蛸のサラダ】蛸は久々に帰神される方へのおもてなしとして、明石蛸をおごった。下茹でして切っている最中についついつまみ食いしてしまう。香ばしく、いうまでもなく絶妙に身がしまっている。さて、蛸に合わせるのは玉葱(うんと薄くスライスして塩ひとつまみを揉み込み、水分をしぼる)、大葉(繊切り)、トマト(アラレに切る)、茗荷(これは胡麻和えと違い、縦に薄切り)、胡瓜(胡麻和えと同じ)。味付けは胡麻油と塩、米酢少し。ニンニクの微塵をほんのちょっぴり入れると風味がよろしい。味付けはうまくいったと思うが、出勤前に作っておいたものだから、野菜の水分が出てびたびたしていたのが玉に瑕。
【ゴーヤチャンプル】豚肉の代わりにツナを用いた。あとに出る豚のローストとの重複を避けるため。一緒に炒める豆苗も湯通しして水分を切っておくのがコツ。このところ連飲の鯨飲だったので、ゴーヤの苦みがなんとも嬉しい。
【鰯煮付け】見るからに脂ののった、メタボ鰯である。こういうよく肥えた鰯はたとえば梅干しや酢で煮たところでやっぱり脂っぽくなってしまうのだから、殺さずにむしろそこを強調するほうがかえっていいのではないかと思い、濃口醤油に味醂をふんだんにつかってこっくりと炊き上げた。黄金色に輝いた皮肌が美しい。ま、どちらかというとご飯のおかずですけどね。
【枝豆】だだちゃ豆。これも朝の内に、茹でて「やむなく」冷蔵庫に入れておいた。料理の本を見ると一様に「枝豆は茹でたらすぐに冷やして色変わりを防ぐ」としてあるが、青いだけの枝豆の何が旨いのかと思う。自分だけで食うときには、塩ゆでした湯のまま食卓にもってくる。たしかに色は悪くなるけど、こちらのほうが豆の旨味が強く出ているハズ。
【ローストポーク】豚三枚肉に塩胡椒をなすり込み、蜂蜜を塗りたくり、クローヴをぶすぶすと突き刺し、ローズマリーでひっぱたき、と暴虐の限りを尽くしてぐったりしたところに赤ワインをたっぷりそそぎ、オレンジの皮を投げ込み、三日が間土左衛門状態で放置する(マリネするとも言うらしい)。あとはオーヴンで焼くだけ。ソースは漬け汁をバルサミコとラズベリージャムで煮詰め、バターでモンテしたもの。
酒はミスター水汲みこと空男、連句作者としては空弾がビール券を大量に投入してくれたおかげで、エビス数十本に「大七」が恵まれた。
あらかた予想できると思うが、これだけ酒肴が揃うと、肝腎の句作の手際はどうしても乱れがち。たしか芭蕉さんもどこかで俳席での飲酒を戒めていたように記憶するが、これは絶対に弟子たち、多分「十五から酒を呑みでてけふの月」なる名吟をものした其角あたりの酔態に辟易させられた結果の禁止令に違いない。
結局五時間半で進められたのはわずかに十句。つまり半歌仙にも満たず(歌仙は、「歌仙」だから三十六句である)。やけに半端な形になっているが、ここまで書いた以上、載せておきます。発句は私。「粒揃うたる」にはもちろん、連衆が「粒ぞろい」だという挨拶の意を込めている。「はじき豆」は枝豆のこと。
次は二十四時間テレビならぬ、二十四時間句会をぜひ開きたい。こちらは暴虐なる宗匠であるからして、連衆諸氏の迷惑は顧みない。
**五吟「はじき豆」
初オ
はつ秋や粒揃うたるはじき豆 碧村〔秋〕
鯊焼く小屋の風かぐはしき 里女〔秋〕
月光やテントの先に旗たてゝ 越村〔秋〕※月
砂塵うづむる一眼レンズ 子午〔雜〕
大時化にさき競はする黄金(きん)の夢 空弾〔雜〕
鴃舌ひゞく嶋のをちこち 碧村〔雜〕
初ウ
めぐりへて常世に落つるみこの胤 里女〔雜〕
東の果てにものゝふ集ふ 越村〔雜〕
雪の日を袖立ちつくす影長く 子午〔冬〕
次を約する傘(からかさ)のした 越村〔雜〕
※ランキングに参加しています。下記バナーのクリックをしていただけると嬉しう存じます!
にほんブログ村