撮り鉄のはなし

 王子公園は水道筋の、本通りから入った狭い路地にある小体な店は、たしか、別の食べ物屋が教えてくれて行ったのだと思う。それくらいわかりづらい場所で、また知らなければ入ってみようとは思えない店の外観だった。

 大分で丁寧に飼育された地鶏を、串にはささず、卓上におかれたコンロで銘々が炙って食べるというスタイル。部位によって異なる焼き方を懇々と説明してくれるのは小柄なおかみさん。店主は無愛想に腕組みをして厨房の入り口に立っている。なんだか、少しでも焼き方をまちがえると怒鳴られそうで、他に客のいない静かな店で、連れと二人、黙々と焼いては食べ焼いては食べしていたのを覚えている。

 それでも自慢の鶏はさすがに美味しく、その後も何度か行っている。地卵も買って帰ったことがある。親父が愛想らしきことばを口にするようにもなった。

 ようやく馴染んできたところで、しかしこちらが兵庫区に引っ越してしまったから、ずいぶん長い間この店のことを忘れていたのだが、最近ひょんなことでここから暖簾分けした(ということになるのかな?)「とり徹」三宮店の存在をしった(ネットに非ず)。

 かなり人気らしいときいていたのだが、予約は取らず遅めの時間に訪ねてみると、カウンターに空席がある。久々に味わった大分の鶏は、同じように旨かった。もも肉が美味しいのは当たり前ながら、表面だけ焼き目をつけたむね肉をかみしめた時にあふれてくる肉汁の豊潤、それに砂ずりの柔らかさ、そしてなんといっても肝。「今日はたまたま入ってましたから」と出してくれた白肝の甘さとコクがすばらしい。レバー嫌いの彼女も「海胆みたい」とぱくぱく平らげていた。

 「王子の店の味は落としてないでしょうか」と店長さんは心配していたが、まったく左様なことはござりませぬ。きけば大将もおかみさんも元気に商売をなさっているとのこと。「相変わらずの感じですよ」ときいてニヤリとしてしまった。

 総じて食べ物屋が二号店を出すと碌なことにはならないが、こうやって良い店の味と風儀が若い世代によって引き継がれていくのを見るのは愉しいものです。

 大将とおかみさんに乾杯、感じの良い店長さんにも乾杯。
 それに鶏たちにも。

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