ひやおろし試飲会

  大学で一時間目から授業という彼女を七時半に送り出すと、二度寝もせずに、掃除洗濯を済ませてこちらも出かける支度にかかる。

  兵庫区上沢にある贔屓の酒屋「てらむら」さんから、ひやおろし試飲会の案内を頂いたので、今日は昼から酒にひたっちまおうという訳。

かなり距離はあるが、呑む以上バイクで行くこともできない。天気も悪くないし、散歩がてらゆるりと出かける。

  五宮にある当方のマンションから上沢までは、雪御所町、菊水町をとおり、東山商店街から楠高校の横を抜けるという道筋になる。地名でわかるとおり、雪御所も菊水も兵庫区ではもっとも歴史ある住宅地、さほど裕福ではないけれど荒れた風でもない、落ち着いた家並みが多く、特に川筋の花壇がほどよく手入れされ、というのは派手な色合いの花がこれみよがしに調えられすぎているわけでもないのが好ましい。菊水の公園には人工の小川が流れ、メダカなんぞが泳いでいる。これはいうまでもなく見るに愉しい。

  気分良く「てらむら」さんに到着。午前ということもあって、客は店内に当方のみ。試飲会といっても、レジ前に並べられた酒を銘々に注いで味わうというだけの仕組み。店のご主人・奥さん・おかあさんはそれぞれ仕入れや帳合いに忙しい。愛想がないと思う人もいるだろうが、しっかり酒の味を探るには恰好の状況なのです。

  さて、用意されたのは二十種類。煩を厭わず銘柄を列記しておきましょう。印象ひとことはメモのまま。

○男山:醇にして直線的。 ○浦霞:微かに青い余香。 ○千代寿:少しもむない。 ○榮川:バランスよい。 ○越後鶴亀:旨味がさらりとほどける。 ○開華:たおやか。 ○酒呑童子:清爽。青い洋梨。 ○萬歳楽:名刀の冴え。喉奥でぐんぐんふくらむ。 ○華鳩:ライチのような香り。 ○梅錦:華やか。立体的。余香は干葡萄のよう。 ○一ノ蔵:硬いくせに豊か。 ○秀よし:ナッティな香り。蜂蜜のコク。 ○米鶴:豊潤な土の香り。舌でつぶすと旨味ほとばしる。 ○天寿:爽やかな甘さの奥に一枚酸の岩盤が効いてる。 ○信濃錦:石清水。 ○若竹:含み香が胡桃のよう。 ○小鼓:清麗。 ○なにわ:やわらかに味が広がる。 ○御前酒:熟した香り。旨味と酸のバランス佳し。 ○日置桜:酸の粒が立っている。

 むろんさかずきに一杯ずつながら、続けて呑んだのでは舌も鼻もぼけてしまう。水でうがいしたり、ナッツをかじったり、鼻をかんだりしつつの利き酒なので、これだけを呑み終えるともう一時過ぎになっていた。当方がいちばん気に入ったのは「萬歳楽」(常用の銘柄)だったが、これは残念ながら「てらむら」では仕入れていない。「天寿」と、「花巴」(試飲用には出ていなかった)を求めて帰る。ホントはあと二三本買いたかったのですが、さすがにそれは無理。

  というのは、帰り道に東山商店街で魚を買うつもりだからである。まず一回市場の通りを流したあと、これも贔屓の手打ちうどん「はまもと」に入って、おでんでビールを呑み、素うどん(すっかり関西を席巻した感のある讃岐風ではなく、昔ながらのほわっとやらかい麺と、甘いのではなく甘口の出汁)で腹ごしらえしながら献立を考え、もう一度市場へ。

  信頼している魚屋が甘鯛(赤)をすすめてくれたので、それと中トロのサク、あとは子持ち鮎と、めずらしいカメノテ、栗、茗荷、茄子、酢橘。

  甘鯛は二枚におろしてもらう。頭はついたまま。片身はうろこものこしてもらう。うろこの付いたほうは塩をしたあと、ベランダで風干し。これは翌日に酒を塗って炙る、つまり若狭焼きにする計画。残る半身は酒をたっぷりふって豆腐・椎茸・三つ葉とちり蒸しにした。酢橘をたっぷりしぼる

  子持ち鮎は番茶で煮たあと、煮汁を捨て、改めて酒・味醂・醤油で煮詰める。これには青柚の皮をおろしてふりかける。

  カメノテはシンプルに塩茹で。潮の香りとしこしこした歯ごたえがこたえられない。
 
  栗は鶏モツと煮込みにし、茗荷・茄子は揚げ浸し。水茄子と胡瓜は朝から時間を見計らって糠床に入れておいた。

  「花巴」は紹介通りに食中酒にぴったりの味。延々五時間(!)かけて豪奢な秋の食卓と酒を堪能しました。

  本の方の相手は関容子『舞台の神に愛される男たち』、姜在彦『朝鮮儒教の三千年』、坂村健毛沢東の赤ワイン』。※すっかり酔ったので感想は記せず。

  さて、きたる十月十四日(日)には、二回目となる『大人の宴日』が同じポートピアホテルで開催される。もちろん各蔵元がひやおろしを中心に自慢の銘柄をたずさえて乗り込んでくるのである。待ち遠しい。去年はまだあれでも食い足りない・呑み足りなかったからな、今年はもっと飛び回るぞぅ。

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