てふてふが一匹・・・・

 韃靼海峡をわたっていくのは絵になるが、こちらはせいぜい八月の石にすがって気息エンエン、悪くすれば「いぢらしい蝶類の騒擾」ともとられかねない。

 「もちろん」バタフライのはなし。曲がりなりにもクロール、平泳ぎ、背泳ぎは完成(というのは、一人で練習できるようになった、というレベルのこと)した(とわが師匠たるMコーチがおっしゃるのである)ので、一月ほどまえからバタフライに挑戦している。

 かねがね、他人が泳ぐのを見ていて、なんだか河馬が溺れかかってるみたいでみっともないなあと思っていたのだが、今度は自分でその、溺れる河馬を演じることになってしまった。

 溺れているように見えるのはやたらと水しぶきがあがるから、そしてやたらと水しぶきがあがるのは、充分に体のうねりを利用できていないから、ということになるらしいのだが(とこれも師匠がおっしゃる)、三十八にもなっていきなり肩・胸・腰をくねくね波打たせられるというのもなんだかフツーではないわけで、時間をかけてなめらかな動きのコツを体得するほかはない。めざすのはシーサーペントである。

 水に浸かっていると気付かないが、二時間根をつめて泳いでいると相当に水分が抜けてしまう。スポーツドリンクでも飲まなきゃいけないところだが、水を一口含むだけでさっさと帰宅し、缶ビールをぷしゅ。とやる。

 ぴっかぴかの豆あじを買ったので、ものすごく手間はかかるが三枚に下ろし、立て塩をする。氷のかたまりを放り込んであるので、余分なあぶらはここで水に浮いてぬける。

 ざるにあげてキッチンペーパーで丁寧に水分を拭いとったら、米酢に五分ほど漬ける。引き上げて皮をむき、すり生姜と繊切りにした茗荷で。あとは、
・水茄子を塩もみしたあと、たっぷり酸橘をしぼったものに削ったあと揉んで粉にしたカツオをまぶしたもの(醤油は用いない)、
・オーヴンで焼き目をつけた大黒しめじを、ごく薄味に炊いた小豆と、賽の目に切った柿とともにクリームチーズで和えたもの(われながら洒落ている)

 こうしたアテで一口目は缶ビール、二口目(なにせ喉がカラカラだから、一口で飲み干してしまう)は例の「天寿」で。


 本は橋本治浄瑠璃を読もう』。『ひらがな日本美術史』・『双調平家物語ノート』とともに、厖大な著作のなかでもこちらがいちばん愛する系列の著述。内容は文字通り、人形浄瑠璃の台本をテクストとして読んでいく、という趣向。

 いったいに小説・戯曲の批評では、あらすじの要約がきれいに出来るかどうかで書き手の技量が露骨に見えるものだが、橋本治は、あの複雑怪奇・盤根錯節・荒唐無稽、その他四字熟語がいっぱいつらなりそうな浄瑠璃のあらすじを、端から丁寧に追いかけるという形式を採用することで、この《玄関》(玄妙なる関門)をクリアした。

 やはり面白いのは随処にひかる橋本節である。今、てもとに本が無いので正確な引用ではないけど、「情報を読めないやつは江戸時代にあってもバカあつかいなのである」とか「周囲を見ない正義漢が事態を悪化させる」とか「(『菅原』の)真の主人公は、白太夫である」とか、快哉を叫びたくなるような表現をいくつも覚えてしまった。十一月に見に行く予定の日本橋文楽劇場仮名手本忠臣蔵』の通し狂言が今から愉しみ。

 とあとは風呂に入って寝るだけ、というのがいつものパターン。今は逆ダイエット中なので(ドラゴンゲートの琴香さんのブログを見ていたら、おなじような記事があって同情した。プロレス選手としてはあのちっちゃさはやっぱり大ハンデだろうなあ)、豚バラと三つ葉の卵とじ丼を作って食べる(やや苦痛)。

 それにしても風が冷たい。


うたたねの朝けの袖にかはるなりならす扇の秋のはつ風 式子内親王


※ランキングに参加しています。下記バナーのクリックをしていただけると嬉しう存じます!
にほんブログ村 料理ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村