精励恪勤

 同僚・湘泉子のお誘いを受けて久々に大阪に出向く。一軒目は福島の聖天通商店街に中にある蕎麦屋『からに』。福島の駅で降りるのは初めて。この辺り空襲で焼けなかったのかなあ。古い長屋や路地が残っている。典型的な大阪の下町という感じ。田辺聖子『私の大阪八景』そのままやな、と思いつつ商店街を歩いて行く。

 『からに』も、荒物屋かなんかの小商いをそのまま使ったような、全然気取りのない店構え。石の胸壁とガラスの引き戸がいい感じである。午後五時の開店すぐに、常連らしい近所のオッサン風の客が次々入ってきては酒を頼んでいる。

 こちらもまずは酒。酒盗と豆腐のもろみ漬け、それに烏賊の丸干しで冷酒を二杯。むろんアタクシも湘泉子も、通常はこんなもんでおさまるわけはないが、この日はまだ次があるのでこれにて打ち止め。蕎麦は二種類。田舎風のぶつぶつ切れる真っ黒なやつは苦手だから、「細切り」と称するほうを頼む。なかなか旨かった。店主も奥さんも、蕎麦屋にありがちな偏屈さがなくてそれもよい。店を出た後で湘泉子が「それがどないや、ってもんですが、ミシュランにも載ったそうです、あの店」と教えてくれた。

 次は久々の東淀川『とりや 圓』。この日の尤物は鳩。窒息させて血をたっぷりとどめた肉は噛んでも噛んでもジュースがほとばしる感じ。大好物なので驚喜してむさぼり食う。心臓・肝臓・砂ずりも旨い。とくに肝臓の濃厚さが素晴らしい。横のカップルが羨ましそうに見ていた。その他ふつうの焼き鳥や各種キノコのソテーが次々と出される。湘泉子が尋常ではない(と思う)健啖家なのを知っているのである。キノコなどは鉢にてんこもりになって出て来ていた。

 ここでは先を気にせず冷酒をがぶがぶ。鳩に合わせて赤ワインも一本頼む(グルナッシュ)。すっかり堪能して、陶然となったまま終電で神戸に戻り、そのままCに行って、朝まで痛飲。

 翌日の二日酔いは予想通り。熱いほうじ茶を何杯も呑みながら、ぼんやりする。インターネットを見てみると、丸谷才一の訃報が出ていたのでびっくりした。

 友人と巻いた連句何巻かを、この道の先達である玩亭丸谷先生に差し上げたところ、すぐに丁寧な礼状がきて喜んだのは夏くらいのこと。返事をいただけて嬉しかったというのもむろんあるけれど、丸っこく大振りな字で書かれた文章がエッセイの丸谷調そのままで、それもなんだか嬉しかった。「風流を楽しむ人が多いのは文明のあかしです」、と書いてあった。自分もそうした「風流を楽しむ人」であった小説家の死を悼む。

 一寝入りして風呂に入ると、新神戸に向かう。ポートピアホテルで開催される二回目『大人の宴日』に行くためである。会場に着くと昨年以上の盛況。

 細かく書いていったらきりがない。ただ何にも触れずにおくのも心残りである。いささか殺風景ながら、食べた料理と呑んだ銘柄だけを記しておきます。日本酒バンザイ。日本料理バンザイ

天寿 純米、古酒純米吟醸、同大吟醸
一ノ蔵 特別純米
浦霞 ひやおろし特別純米
大山 特別純米ひやおろし
米鶴 特別純米原酒ひやおろし
大七 純米生もと原酒
若竹 鬼ころし大吟醸 女なかせ、特別純米原酒長い木の橋
越の誉 純米大吟醸原酒
若戎 純米吟醸義左衛門中汲み、同ひやおろし
ハクレイ 多年貯蔵酒「黄金」
都美人 風のままひやおろし
嘉美心 純米大吟醸、旨口ひやおろし
御前酒 山廃純米昔造り、菩提もとにごり火入れ
賀茂泉 造賀 純米酒純米吟醸古酒1997
五橋 木桶造り生もと純米
梅錦 熟成純米
司牡丹 山廃純米かまわぬ
エドビール 瑠璃、紅赤

飲de安 おでん盛り
東荘 秋なすと季節野菜の炊き合わせ山椒味噌かけ
一夜一夜 おまかせおむすび
おたふく 鰻けんちん、蒸し鶏柚子胡椒ネギオイルソース、ごぼう豆乳豆腐
お魚ダイニングくにや 秋刀魚のうに味噌焼き
さかな料理咲咲 湯葉しゅうまい
手打ちそば処卓 からみ大根のおつゆそば
ダイニング木下 秋刀魚と蓮根のあんかけ饅頭
ごち蔵 ごち玉、牛タンの味噌漬け、鮭の焼き漬け
瑞相 秋刀魚煮
のんでこー屋 味噌漬けチーズのカナッペ、ネギトロ長芋海苔巻き
福助 三田牛の巻き寿司、丹波黒の枝豆、三田ポークの炙りハム
はんなり祇園 大根のからしビール漬け
旬彩よしはら 鰆の煮付

 個々の論評には及ばない。

 今年は椅子席も用意されていたせいか、みんなおっとりと呑んでは食べしていた。こう引き写してみると、しかし、わしゃ元気だな。

 どれもグラス一杯ずつだから総量としても大したことはないと思っていたが、三宮に戻ってイスズベーカリーでパンを買おうとすると、知り合いのホステスに呼び止められて少し立ち話。「ものすごく酒くさいわね」とのこと。気がつかないことで。

 そのままOに行って何杯か呑む。脳髄からカラダからみんな麻痺してるんだろうな。ちっとも酔った気持ちにならない。と思いつつ日曜日の東門街の夜はただただゆっくりと更けていくのでありました。

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