窓の雨音

この一週間、二回ほどハゲシク呑んだので文字通り酔生夢死の状態。記憶もとりとめがないので、印象にのこっていることを「吹き寄せ」風にぽつぽつと。

料理。

あおりいか一杯を買って堪能。何年か前に明石の魚の棚で百科事典ほどもあるばかでかいあおりいかを、「こんなもの一人で食いきれるかい」と呟きつつも買ってしまい、結局食べ尽くした覚えがある。そこまで大きくはないが、でもやはり一人ではもてあましそう。こちらもあの頃に比べたら衰えてきたしな。胴はむろん刺身で、甘くてもちもちして旨い。山葵醤油、生姜醤油、梅肉で食べる。耳の部分は天ぷらに。げそは三つ葉とかき揚げで翌朝に天丼にした。火を通すとまた別の旨味が冴えてくる。

かぼちゃの蒸し物。どこかの中華料理屋で出したのがちょっといける味だったので自分なりに復元。かばちゃは薄切りにしたあと、紹興酒をふりかけて蒸しておく。べつに豚ミンチを炒めて塩胡椒山椒で味つけ。両者を皿にならべて、上から卵白をかけて蒸す。肉とかぼちゃの上に、思いついて振りかけてみたニョクマムがいいアクセントとなっていた。蒸し上がったら香菜を散らす。

いくら醤油漬。筋子を買って自分でほぐして漬け込む。売ってるやつは変に甘かったりくどかったりして旨いと思ったことがないので作る。炊きたての飯の上にこれをたっぷりかけて、山葵と葱、海苔を載せたものを掻き込むと、痛風でも鉄砲でも持ってこいという気になる。

鶏のとさか。これは店で食べたもの。刺身と焼いたのと。洒落た食感。ちょっと工夫したらいい前菜が出来そうだ。どこで入手できるのか知らんが。

よく呑んでいる週は、不思議と読書もはかどるのである。

・原聖『ケルトの水脈』(シリーズ「興亡の世界史」中の一冊):古代ケルト文化なるもののイメージが近代にいたって形成されたものであることを考古学・民族学の知見を駆使して証明していく。こう紹介すると、ああ、またあのテの近代批判の本ねとうんざりされそうだが、部分部分で興味深い話が色々出てきて愉しめた。
・ニール・マクレガー『100のモノが語る世界史 3 近代への道』:特にコメントなし。面白い。
・リチャード・フォーティ『乾燥標本収蔵1号室』:たしか書評などでも評判になったのでは。大英博物館畸人列伝。やっぱりイギリス人てヘンな連中だよな。フォーティの筆致も堂に入ったもの。
永井均ウィトゲンシュタインの誤診:「青色本」を掘り崩す』:ウィトゲンシュタインは自分で自分のの「病気」を診断し、処方箋を書こうとしたが、それがどう失敗した(と著者は言う)か、という視点から「青色本」の論旨をほぐし、批判していく。そりゃ哲学の本だからダン・ブラウンの伝奇小説みたいにすらすらと読めるわけではありませんけど、「手に汗にぎる」面白さありです。
渡辺保『私の歌舞伎遍歴 : ある劇評家の告白』:題名そのままの内容。むかしの舞台の細かいところを実に正確に(なんだと思うが)記憶していることにびっくりさせられる。相変わらず批評は冴えてるな、とは思うけど、そして歌舞伎の魅力はたしかに存分に語られてはいるんだけど、それを語る文体が、無味乾燥とまではいかないにしても、もひとつむせ返るような幸福感が感じられないのはなぜだろうと、かねてからいぶかしんでいた(関容子さんの一連の聞き書きものと比べていただきたい)。その謎がこの本で解けた。筆者は加藤周一の文章に大きく影響されているのだそうな。なるほどね。
・佐野衛『書店の棚 本の気配』:神田神保町の老舗書店東京堂に長年つとめてきた著者による読書論・・・ときいて期待していたが、内容は水っぽく、文章の味わいにも欠ける。それでも興味深い書名がいくつかありメモした。
・田中法生『異端の植物「水草」を科学する : 水草はなぜ水中を生きるのか?』:これも特にコメントなし。アクアリストの端くれとしては興味深い本に決まってるから。
・『市島春城古書談叢』:日本書誌学大系の一冊。じつは書誌学大系を全部読んでやろうという「野望」を抱いているのである。大学院生時代には調べ物の資料としてしか使ってなかったしな。そんなもの全巻通読してどうなる、といわれても返す言葉はないけれど、人生IT企業を起業してどうなる、といわれても、やはりどうなるものでもないでしょう。暇つぶしをしているうちに老境、という人生を歩みたいものである。これは近くの市立図書館に置いてないので、後輩空男氏の手(というか車)をわずらわせて、大阪府立図書館で少しずつ借りてきてもらうことになる。

この他に、紀伊国屋のウェブサイトで注文していた、待望の本がどさどさと相次いで到着。あのエマニュエル・ル・ロワ・ラデュリが書いたSaint-Simon and the court of Louis XIV(の英訳版)。イタリアの文化史家ピエーロ・カンポレージ(一度当ブログで『風景の誕生』を取り上げたような記憶有り)のBread of Dreams、それにキース・ロバーツの『パヴァーヌ』。これはちくま文庫での復刊。サンリオSF文庫は、例の如く狂気のような値段が付いてて買えなかったのだ。といってこの傑作はやはり図書館で借りて読むのは忍びないので今回の復刊はぼくとしては快挙!と絶賛したい。この三冊についてはまた感想を述べるかもしれない。述べないかもしれない。

灯火親しむの候、なんて貧乏くさいことはいわず、年がら年中本は愉しめるものだけど、今日みたいにしとしと降る雨の音を聴きながらの読書はひとしお贅沢な味わい。日付が変わるまでは持田叙子『泉鏡花 百合と宝珠の文学史』を繙くとしますか。ベッド(たいがいの本はベッドかソファに寝転がって読む)にそのうち鏡花全集が積み上がることになりそうだけど。

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