今年の三冊

 忘年会続きのせいか、もひとつ胃腸の調子がぱっとしない。もっとも何年かまえ、同僚たちと中華鍋を食べた時に(生の海老や牡蠣などが入る)、みんなばたばたと倒れたなかで、オレだけぴんぴんしてたからなあ、とも思い出す。ふつうなら寝込んで動けないところを、少し大食がきかないくらいに感じている、ととるべきなのかもしれない。

 とはいいながら、この日も空男氏と、水汲み御礼の食事で北野坂「おたふく」。しばらく行ってなかったのだが、献立を絞り込んで、店の性格がくっきりしてきたように思う。造り盛り合せ(すずき、鰤、本まぐろ、平鰺)とげそ天ぷら、あんきもの焦がしバターソース風呂吹き大根添え、〆鯖の炙り、里芋揚出しなどを食べる。突出し(お浸しの丁寧な味付けが好ましい)はじめ、どれも美味しかった(ことにあんきもが秀逸)が、造りの生姜が、前から苦言を呈しているのだが、まだ改善されず、チューブのままらしいのが残念。

 空男は、大学同門で巻いている連句にちっとも投句してこないので、ねっちりと絞り上げる。いじめおさめである。

 もうすぐ今年も終るし、今年を振返っての「わが三冊」。全部当ブログで紹介はしてますが。


*クラウディオ・マグリス『ドナウ ある河の伝記』
*A.J.A.シモンズ『コルヴォーを探して』
イーヴリン・ウォー『卑しい肉体』

 どうぞ来年もよい本に巡り会えますように。

 以下は最近読んだ本。

山崎正和『世界文明史の試み 神話と舞踊』:前著『装飾とデザイン』の主題を敷衍する形での壮大な「文明」誕生→展開のドラマ。慣習から「意識」が誕生したという仮説が興味深い。これは読者銘々が人類学や宗教学、脳科学の業績について考えるべき課題なのだろう。ラスコーの壁画は集団的なサヴァン症候群の患者による作物ではないか(!)というような怪説も飛出してくるが、全体としては、これまでの山崎文明論の集大成のような本になっている(社交の意義の強調や、「東アジアに普遍文明は存在しなかった」という主張や、倫理の個人化、など)。あえてこの表現を用いるならば、見事な《晩年》の仕事。だから、ここからは望蜀の嘆ということになるけど、著者の仮説の枠組に致命的なひびを入れるような知見に行着いてしまったあとの、アウフヘーベン・再構築の作業を読みたいものだ。山崎さんご自身、『哲学と哲学史』(中央公論新社『哲学の歴史』中の一冊)のアンケートで、従来の自分の学的立場を破壊してしまいかねない概念の導入をあえてして老フッサールの知的誠実さに、満腔の敬意を表しているのだから。

・で、その『哲学と哲学史』ですが、「書物が私を作った」(グレアム・グリーンの自伝表題の真似か)という前述のアンケートが興味深い(ちなみにいえば、このシリーズと,講談社選書メチエ版の『西洋哲学史』両シリーズも出版上の快挙)。トマス・アクィナスデカルト(とくに『省察』)を答えている研究者が多いのが意外だった。カントやニーチェが少ないのもこれまた意外。

・『ルネサンス人物列伝』:『世界文明史の試み』では、西洋文明の連続性が強調される結果、十二世紀ルネサンスがクローズアップされ、逆にブルクハルト的イタリア・ルネサンスの意義はより小さく評価されることになる。その説の妥当性はおくとして、『イタリア・ルネサンスの文化』に胸をときめかせた読者としてはなんだか寂しくて、バランスをとるように手に取ったのがこの本。題名どおり、様々な連中が出てくるのだが、そして、その中にはむろんロレンツォ・デ・メディチラファエロといった《常連》もいるのだけど、こちらが名前すら知らないような人物が多くて、たっぷりと愉しめる。たとえばアントニオ・リナルデスキ。いわゆる「ごろつき」で、博奕に負けた腹いせに、聖母の肖像に馬糞を投げつけて、涜聖のかどで処刑される。面白いのはこの馬糞が、のちに「奇跡」の絵画として崇敬を集めるという後日談。また、ヨーロッパのあらゆる道化が模範と仰いだアクロバット芸人アルカンジェロ・トゥッカーロなど。列伝は、古くさいとも言えるが、やはり不滅の著述形式である。

・ウィリアム・コッツウィンクル『ドクター・ラット』:要するにワン・アイデア・ストーリーであり、それ以上でも以下でもない。筒井康隆さんが書いたらどうなってたか、と思うとぞくぞくする、というテーマである。

・吉田孝『歴史の中の天皇』:やはり著者の専門である古代の部分が一番面白い。ずいぶん色んなことを言わずにいるような印象(新書だから仕方ない)。やはりこの人の主著に就いてみなければ。

・マンフレート・ルルカー『鷲と蛇 シンボルとしての動物』/江原絢子『家庭料理の近代』/ジョナ・レーナー『プルーストの記憶、セザンヌの眼 脳科学を先取りした芸術家たち』。


 忘年会が一段落したら、またアラフォーオトコの《おひとりさま》献立載せます。

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