無頼侍

 『六代目三遊亭圓生全集上下』DVD二十四枚組というものすごい買い物をしてしまった。やっぱりCDの音だけでは妙味が分からないからなあ。

 『浮世風呂』『三十石』などで、音曲のうまさに舌を巻き、上方ことばと江戸ことばの巧緻極まる使い分けを存分に愉しんだ。

 前日はこっぴどく呑んだので、かなりの二日酔い。寝そべって一日中これを聞いていたかったが、のそのそと起き出してシャワーを浴びる。ゼミの大大大先輩である綺翁さん(これは俳号)のお宅でのお呼ばれなのである。

 お宅は芦屋。わざわざ駅まで迎えに来て下さっていたので恐縮しながら車でお宅に向かう。この日の趣向は、松江出身の綺翁さんが子どもの時から親しくしていたという、酒蔵『李白』の各種銘柄を味わおうというもの。

 実に細やかな気配りで、手づから作って下さった料理が振る舞われた。出された品は何々ぞ。零余子、焼き鳥、唐墨、田楽、ワタリガニ中華風、ステーキ、そして最後には手打ちの蕎麦(これがまた旨い)と、いやまったく堪能いたしました。

 綺翁さんは我らが師匠が重篤な病に倒れたとき、ほとんど毎日のように家に通って、退院後もリハビリのお手伝いをずっとなさって来た方。当然その方面に話が及ぶ。結論としては「やはり師匠は人間ではない」。これは驚異的な回復力、というか生命力のことをいっているのである。

 また綺翁さんは、師匠と不肖鯨馬子とが中心となって巻いているメイル歌仙の、レギュラーメンバーである。これまた当然のように俳諧の方面にも話が及ぶ。詳しくは申せませんが、連衆誰それの月旦(「散文的」「センスがない」「ぞろっぺえなことばづかい」)を、いろんな美酒を酌みながら大声でする、これほど愉快なことはない。

 綺翁さんはまた、かつての学生運動家でもある。今はすっかり苦労人という風格の、物腰やわらかい人柄にお見受けするが、時折昔取った杵柄か、こちらがどきっ、というかびくっというか、ぎくっとと呼ばんか、ともかく一瞬身構えてしまうような鋭い目つきを見せる。大病から回復したての師匠が(一時期は文字が読めなかったそうな)改めて読んで面白がっていたというトロツキー(!)の著書を読んでみたけど、これがじつに面白いんだよ、とにこにこ顔で語る口調にすっかり毒気を抜かれてしまった。

 やはり青二才はこういう世代の凄みに敵わないのである。せめて俳諧の上でなりとも互角に渡り合うべし。日々是修行。俳諧無頼。

 家に帰ると、紀伊国屋から馬鹿でかい包みが届いている。以前注文し(て忘れてい)た洋書が一気に入荷したのであるらしい。当ブログでも何回か名前の出たフレデリック・ロルフの小説二作(『トト物語』『ドン・タルクィーノ』)にニコラス・シェイクスピアが書いたブルース・チャトウィンの伝記(これはシェイクスピアの署名入りであった、とこう書くと文字面では大変貴重な感じに見えるね、どうでもいいことだが)など。

 圓生のDVDもまだまだ残ってるしなあ。連休が待ち遠しい。


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