走る宗匠

 帰宅の途中、いつものスーパーをのぞいてみると、未知の深海生物のような、宇宙からの侵略者の切れ端のようなブキミな物体を発見。店員のおっちゃんにきいてみると「真鱈の真子、煮付けが旨い」と教えてくれた(ここは魚売場が充実しているのである)。

 真鱈の真子・・・脳裡によぎるものあり。とりあえず買って帰ることにする。家の書棚から引き出して確認するに、やはり読んだ記憶がありました。辰巳浜子さんの不朽の名著(と言いたい)『料理歳時記』の中で一項を立てて説明されていたのだった。綺麗に洗って、蒸したあと、皮を剥いてこっくりと炊く、か。

 確実に言えることだと思うが、こういう下処理をきちんと行うかどうかが、実は味付けの具合以上に料理の出来を左右するものなので(何度も痛い目にあって学習した)、説明どおりに蒸し上げていくことにする・・けれどつくづく見るほどに、色あくまでも赤黒く形状あくまでも太く、実にけしからぬ風体をしております。

 よく見かける、黄色がかった、ふくよかな体格の人の中指ほどの大きさの「鱈の子」は、あれはスケソウダラのほうなのですな。こちらは塩をして、昆布・酒で旨味をのせ、韓国の唐辛子粉をまぶせば、いわゆる明太子になるわけである(市販の明太子は、あれはなんぼなんでも化学調味料の使いすぎではなかろうか)。

 尿酸値の高いかたにはまことにお気の毒ながら、当方いたっての魚卵好き(海胆も含めましょう)。特に塩辛は、鯛・鮭(つまりイクラ)・さきほどのスケソウダラ等々自製していっかな倦むことがない。

 さて、蒸し上がった真子はまるで死人の顔のような土気色で、食欲をそそらないことおびただしいが、醤油・味醂・酒塩を惜しまずに、海老芋・むしりこんにゃくとことこと炊いていくと、旨そうな匂いに変わっていく。どうしたって、料理屋で出すような一品ではないけれど、家で熱燗一本をつけるにはちょうどよい酒の肴となりました。

 この日は他に、厚揚げと豚挽肉の炒め煮(豆鼓を主に味付けし、片栗粉でとろみをつける)、納豆汁(これも酒のアテ。よく擂った納豆を、八丁味噌の汁に入れる)、蓮根の梅カツオきんぴら(醤油・味醂は使わず、酒・塩で味付けし、梅肉の裏ごしとよく揉んだカツオであえる)。

【酒の対手/最近読んだ本】

*ロバート・ロウランド・スミス『ソクラテスと朝食を』(講談社):現代の都市生活のいろんな局面の中にテツガクする契機を探る。分かり易い組み合わせもある。「出勤/ニーチェ」なら、「ああ、畜群ね」となるし、「仕事をする/マルクスヴェーバー」もこれ以外にない、というコンビだろう。逆に「ジムに行く/バフチン」とか「パーティーに行く/マキャベリ」となると、どう関係する(させる)のかに興味がそそられる、というかそそられて手にとった。なにか革新的なことが書いてあるわけではなかったけど。

 哲学・思想史関係では他に、
松本啓二朗, 戸田剛文編『哲学するのになぜ哲学史を学ぶのか』(京都大学学術出版会)、篠原資明『空海と日本思想』(岩波新書)も読んだ。


鎌田東二古事記ワンダーランド』(角川選書):「歌の力」がやけに強調されてると思ったら、鎌田さん、「フリーランスの神主」で「神道ソングライター(!)」だったんですね。大学で江戸の思想を勉強していたくせに、じつは(恥をしのんで言うが)宣長の『古事記伝』をきちんと読んだことがない。前項橋本治の明晰きわまる宣長論読んで刺戟受けたとこだしなあ、いっちょ取りついてみるか。

藤山直樹『落語の国の精神分析』(みすず書房):うーん、やっぱりフロイト的な用語体系にはなじまないのか(フロイト自身の論文はある意味あぶないくらい面白いのだが)。いささか古い本になるけど、福田定良『落語の哲学』はやっぱり凄かったよ。

 しかしなんといっても今週はロベルト・ボラーニョの『2666』(白水社)である。片手では持つのも辛いくらいの大著で、まだ読み終えてないから感想は書けないが、うっすらその「世界」に入って行けそうな予感。物語の愉しみはここに極まる(マンガでも同じこと)。たぶんRPGもそうなんだろうが。最近細かい用事が多くてなかなか長編小説にとりつけないのだが。


 というのは、連句の興行が最近やたらとハイペースなのである。一時は三つを(メイルを介しての歌仙ですが)かけもちしていたこともある。今度は、連句がまったくのはじめてという佳人二名をお迎えしての「チュートリアル歌仙」である。しかし、この連句という文芸形式、まことに具合の悪いことにメイルではなんとも説明の仕様がないものなのである。やっぱり「その場」での対話がないとなあ。なんとかこの魅力を多くの人に伝えたい。だって始めたヒト全員がハマっているんだから。

 世に俳句の結社は多いが、連句宗匠はまだまだ少ないように思う。ひょっとすると、これぞ我が天職か、と半ば真剣に思い始めている今日この頃なのでございます。

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