山の秋・海の秋

 前日は初見参のイタリアンが低廉かつ美味かったので、スペインのこってりした白を呑みすぎてしまった。ここは知り合いの店から紹介してもらったところ。やはり食事する所は口コミに限る。ヒントを申し上げておきますと、県庁近くの数字が入るお店です。

 で、調子に乗って東門で朝方まで呑んでいたから、翌朝は微妙に二日酔い。ぐったりしたまま寝込んでいるのが通常だが、この日は昼から一泊の旅でありますから、ダシの効いたカレーうどんをのそのそ作り、熱々のところを食べて汗びっしょりになって無理矢理直してしまう。

 今回の行き先は家島。なにげなく島の観光サイトを見ていたら、どこの宿でもやたらに海鮮が旨そうである。で、思い立った。兵庫区の自宅からバスで三宮まで約十五分。新快速で姫路まで小一時間。そこから姫路港までバスで三〇分弱、「高速いえしま」なる船で三十分。近いと言えば近いが、あいだの待ち時間があったので、結局は午後一杯をかけて到着したような格好になった。

 高速船を待つ人々は顔を見ると互いに挨拶している。みんな島民で顔見知りなのだ。まだちょっぴり靄のかかった頭で立っていると、いかにもよそ者が紛れ込んだかのようで居心地が悪い(念のため言っておくと、当方が勝手にそう感じているだけの話であって、他の乗客にそういう目で見られていたわけではありません)。

 宿のチェックインまで一時間ほど、浜辺を中心に歩き回る。島の東北端にある家島神社にもお参り。ほんとに岬の端に鎮座していて、鳥居や橋は新造ながら、島で唯一残る原生林だという社叢が立派。『延喜式』に挙げられた、いわゆる式内社の風格ということだろうか。

 神社にいくまでの浜伝いに、菅原道真が配流の途中立ち寄って詩を書いたというその名も「詩を書き岩」がある。浜の海水が実にきれいで、また石も粒ぞろい。石好きとしては一つ持ち帰りたいところだが、由緒書には「道真公が詩を書いた小石を浜に落として失った。それ以来恐れ多いということで島の人間はこの一帯の小石は決して持ち帰らない」由。こちらも菅公―と伝えられるがもちろん元は土地の精霊だろう―に敬意を表して石蒐集は断念。

 さて旅館は、あがったりさがったりして部屋に行き着くという昔懐かしい作り。「割烹旅館」を名乗る所にて、むろん前述の通り、こちらもそれが目当てである。出されし料理は何々ぞ。

○前菜 ひじき(家島の産。しこしこしている)・こぶとえびの塩茹で(キロ単価は鯛より高いらしい)・浅蜊しぐれ煮・穴子骨せんべい・鱚の南蛮漬け(生きてる鱚を氷水で気絶させたところを揚げる。でないとワタに嫌な苦みが広がってしまうのだそうな。内臓は苦きが故に尊からず)

○つくり 鯖あぶり・ヒイカ・蝦蛄(鯖は脂の固まりのようで、しかも全く生臭さがない。烏賊はしこしこして実に甘く、その上蝦蛄まで生なのである。これは珍味だった)

○鱧炙り 料理人はよく、「湯引きにしないといけないような鱧は碌な鱧ではない」という。それを裏付けるような豊潤さ。まあ、こちらとしては牡丹鱧の吸い物はやはり横綱の一方として残しておきたいのだが。

○じゃこ天 つくりに出た鯖の残りと鯵、「白じゃこ」(何か良く分からぬ)、むつのすり身で、むろん自家製。ここだけビールに切り替えて呑んでいた。

○目板鰈の煮付け これが傑作。「酒と水と醤油だけ」という。「味醂や砂糖を使わないといけないような魚はここでは誰も食べない」とのこと。関西の人間なら目板の煮付けには馴染んでいるでしょうが、ちょっとびっくりするくらいの美味である。皮がことに旨い。

○焼き渡り蟹 あの煮付け以上の品はなかろうと思っていたが、最後のこれが鰈の上を行くものだった。活けの渡り蟹を一時間半酒に浸け、その後直火で焼くのだが、中が百度を越えると汁気が飛んでぱさぱさになるだけ、ということで、温度が上がらないよう、主人が付きっきりで面倒を見るのである。香ばしくて甘くて肉はかみ応えがありつつしかも汁気たっぷりで・・・思わず酒のほうがおろそかになってしまうくらいの逸品でありました。

○酒 播州の地酒にこだわっておいている、とのこと。翌日の勘定書を見るに、まあよく呑んだわ。「白鷺の城純米吟醸」、「奥播磨ひやおろし」、「神力特別純米」、「えびら純米大吟醸」など取り混ぜて一升。

 翌日二日酔いでなかったのが我ながら面妖なくらいであった(と思っていたが、姫路にもどってビールを呑んだ瞬間にぐわらりと酔いが来た)。

 家に戻ると中津川「すや」から名物の栗きんとんと栗蒸し羊羹が届いている。たしかこれは小学生で食べた時の感激が忘れられず(ひねた子ではあった)、大学生で青春18きっぷで旅したときに中津川に立ち寄って買いもとめて以来、長らく食べていなかった。

 丁寧にお茶を淹れていただく。原材料、栗。以上。と言うしかない濃厚な栗の香りが口いっぱいに広がった。



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