大名旅行

 お互いに仲がいいのか悪いのか、ともかくこの時期、毎年同じような(しかし微妙にズレた)日取りで、大阪の南と北で古書市が開催される。ながらくこうした催しに参加していなかったので、無性に行きたい。で、例の大学の後輩兼運転手役の空男氏に車を出してもらって二つとも回ることにした。

 朝九時半に拙宅に迎えが来る。ゆるゆると下道を走って初めの会場である四天王寺に着いたのが十一時半。日陰に入ると急に寒気を感じるが、陽射しはうんざりするくらいに強い。それでもへこたれず二時間本を物色してまわれたのは、前日節制して呑みに出なかったからだろう。

 一時半に四天王寺を出る。車中、『吉田一穂集成』全三巻を、五千円という廉価にも関わらず買う決断が出来なかった自分のいじましさに悪態をついていると、空男氏いわく、「それなら私が買いました」。さすが我が後輩。欲しかった本が他人の手に渡ってホッとするというのも妙なものであるが。

 次は大阪天満宮。近くの鰻屋でまず飯を食って第二陣にとりかかる。だいぶん風が涼しくなったので、ビールを呑んだあとも疲れはあまり出ない。ここでもたくさん買った。

 塾の仕事までまだ少し時間がある空男氏の車に収穫の袋を放り込んで、今度は天神橋筋の古本屋を三軒ほど流す。こう書くと元気というより、異常なテンションの高さだな。

 それにしても一日でこんなに本を買ったのは何年ぶりか。家に戻って数えてみるときっちり七十冊あった。車で行ったのが大きかったに違いない。主な収穫を書いておきたい。今まで知らずにいた面白そうな本・知っていたが安く買えた本・図書館などで借りて読んだことはあるものの持ってはいなかった本などを織り交ぜている。

 吉行淳之介の「わが文学生活」シリーズが、端本で集め始めてこの日「コンプリート」したこと、小林信彦『つむじ曲りの世界地図』(角川文庫版、安かった!)、『幸福のアラビア探検記』。高山博『神秘の中世王国』・田川建三『イエスという男』。『ヴォルテール回想録』・ポール・セルー『鉄道大バザール』(阿川弘之訳!)。『英国ルネッサンス期の文芸様式』。中野美代子カスティリオーネの庭』。工藤庸子編訳『ボヴァリー夫人の手紙』。ヘンリー・ミラー全集。大岡昇平編『ミステリーの仕掛け』。三遊亭圓生『江戸散歩』。後藤金吉『関西風酒の肴』。『諷刺図像のヨーロッパ史』(図書館廃棄本。当然安い)。河盛好蔵(数少ない、同じ高校出身の先輩として尊敬できる人)『私の随想選』も端本コンプリートまであと少し。洋書ではナボコフの『賜物』やジャン・イポリットの哲学史など。

 空男氏を見送ってから、商店街を抜けたところにある店へ。ここは同僚に教えてもらった。鯛の松皮造り・ぬた・雉子の炙り・かます干物・冷奴、いずれもまことによろしい。これらの肴で冷酒を鱈腹呑む。三宮の『ひの』さんとも共同でイベントをしたことがあるとのこと。毎回イベントは盛況だが、「日本酒人口がほんとうに増えていくのか、ここからが一店一店の正念場でしょう」。

 わしもそう思う。下らない店と同時に下らない客も淘汰されていかないといけない(わしのことか!?)。

 で何が大名旅行かと申しますと、ほどよく酔いが回ったところで、仕事を終えた空男氏が迎えに来てくれるという段取りになっていたのですねえ。

 窓を全開にして冷たい風を車内に流し込みながら、冷奴の鰹をいちいち掻いていたのはエライ、とか山田錦全盛だが、備前雄町の鋭角的な風味は珍重に値するとか、ほろ酔い気分でわめきたてるのを聞きながら黙々運転する空男氏もエラかったと思う。


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