京都愛憎

 百万遍知恩寺の古本市に行った。最近後輩の車で行くことが多いから、京阪出町柳駅から京都大学まで歩くのは二年ぶり。今出川通りに食べ物屋が増えた気がする。とくにラーメン屋。学生の街だからか。

 開場してすぐくらいの時間に着いたが、すでに境内は盛況。慶賀すべし。赤尾さんシルヴァンさん谷さん石川さんと、こちらが学生の頃から知っている店主の方々(向こうは知らない)が元気そうな顔を見せていたのも嬉しかった。

 でも京都の古本屋ってなんだか少し高い気がする。学生の街なのになあ。いや、最近の学生は本など読まないか(何をしているのだ)。それでも『狩りの語り部』や江戸川乱歩『鬼の言葉』、『大阪繁昌誌』、A.クレイバラー『グロテスクの系譜』、M.K.フィッシャー『食の美学』(この人たしか辻静雄の師匠筋に当たるのでは)などが収穫。そして今回は珍しく、括りモノも二点。ゆまに書房が出してる『日本の漢詩人と名詩』全十二巻。これは江戸時代の友野霞舟という漢詩人が編集した『熈朝詩薈』という厖大な漢詩アンソロジーの影印本である。かさばるのであるが、やはり手許にあれば便利であろう、とつい買ってしまった。四千円という安値に惹かれたせいもある。あとは吉川弘文館の例の『国史大辞典』。これも無茶苦茶に場所を食うとわかってはいても、引くためにいちいち図書館(大倉山の神戸市立中央図書館には近いのだが)に行くこれまでの煩わしさを思い返してるうちに、「これ貰うわ」の一言が出てしまった。大学などの研究機関に所属してないと、こういう基本図書から全部自費で揃えないといけないのが辛い。ま、研究者ではないから無くてもいいようなものだけど。

 確か学部生のとき、同じ知恩寺の古本市で意味もなく『大蔵経索引』全三十一冊なんて代物も買ってしまった(それでえらいその月は貧乏した)こともあるしなー。おそるべきは百万遍ゲニウス・ロキである。

 もちろんこんなけの本を持って帰れる訳はないので、全部宅配便に任せ、ぶらぶらと歩いて戻る。と言っても、神社仏閣の観光客でごった返してるようなとこには寄りつかず、京都御所を南に抜けていくことにする(もちろん御所だって立派な観光名所だが、何せだだっ広いから混雑してる感じがない)。

 御苑の庭、それも大宮御所の北、迎賓館を西にする遊歩道の周囲が素敵にいい。糺の森に匹敵するのではないかと思う。思えばこれだけ深い森がうつくしく維持されてるのもやはり皇室関連の土地だからだろうな。大きく息を吸い込むと、木の葉が朽ちてゆく匂いがする。これだけでも町中に緑の少ない神戸の人間にとっては嬉しいことである。

 京都みたいな町、ぜったいに住みたくないと言ったのは東京生まれの澁澤龍彦。こちらのような贅六にしても同感である。こんなところに暮らしていたら窒息してしまう。

 とは思いながらも、ふと顔を向けた先に、(原則画像は載せないブログではありますが)


 このような表示が見られると、うーんやはり敵わんなあ、と思ってしまう(『桂川連理柵』である)。さすがに「軒を並べし呉服店」というわけにもいかず、「虎石町の西側」には駐車場が広がっていたが、文楽に出てくる地名がそのまま残っているのは頼もしいことである。東京に大阪は、地名に関しては焦土と化した、といってもいい惨状だから。

 などとぶつくさ言いながら御池通を渡ると天ぷらやの看板あり。ちょうどひだるくなったところではあるし、と風雅な路地を通って店に入る。『吉川』という店。鱚に椎茸が旨かった。粟麩や栗といったいかにも「らしい」素材もあって、料理には満足したのだが、どうも有名店らしく、常連客とおぼしき男が、女将と主人に媚びをふくんだ口調でしゃべっているのが不愉快であった。まあ、女将というのが、言葉は柔らかいけど、権高さと計算高さが滴り落ちて床をびしゃびしゃにしているような、ぜったいに目は笑わない、典型的な「京都の有名店の女将」だったからなあ。

 わいはどうせ兵庫のあらえびすじゃ、と隣の客の話には構わず酒をちびりちびりやっていた。店を出る時、「『柳の馬場を押小路』がすぐ近くにありますね」と女将に言ったらぽかんとしていたので胸のつかえがとれた気分(我ながら幼稚である)。

 さてそのあとは富小路通から麩屋町通へとじぐさぐに歩き、三条の『三嶋亭』で友人へのお土産として、切り込み肉を買う(これで肉うどんをすると滅法旨い)。そのあと錦で自分用に川海老の佃煮、じゃこ豆を買う。

 地図で御覧になると分かりますが、百万遍から四条までは結構な距離がある。昼酒の酔いが発したこともあって、ここで鯨馬の足は棒と化したため、タクシーに乗って京都駅まで。そこからは新幹線で神戸まで戻った。

 当ブログではおなじみの阪急六甲『彦六鮨』でぬる燗をきゅーっとやって、くたびれたようなほっとしたような気分になったことでありました。

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