浪華掃苔

 「全大阪」という謳い文句にひかれて、谷町四丁目大阪古書会館で催された古本市にいそいそと出かける。

 阪急で梅田に出たあと、阪神百貨店に寄り道し、「吉野寿司」で弁当を誂える。ここはまずまず良心的な商売をしているので、大阪で少し歩く時にはよく使っている。

 道頓堀の「今井」できつねうどんを食べたあと、東に道をとってまずは初見参の空堀商店街をぶらぶら。インターネット上ではよく買っていた「昆布の土居」さんの本店を見付けた。かさばるのは分かってるけど、見てしまった以上義理が悪い・・・のかどうか知らないが、こういう時に我慢できない性分で、えびすめ他をもとめる。更に歩くとかつおぶしの「丸与」(だったかな?)とか鴨汁つけうどんの専門店とか、雰囲気のよい店が多い。「丸与」でも、「古本を買い込む前に何してんだろ」と思いながらも色々買ってしまう。最近お気に入りの革製トートの中はやたらと美味しそうな匂いが充満しておる。

 にしてもこの商店街は良かった。寂れもせず、荒れてもいない。おそらく付近の住民の方をきっちり客につかんでいるところなのだと思う。

 しかし今日は商店街探索に来たわけではないので、小雨そぼふる中、今度は南に折れて古書会館へ。一階から三階までが会場と聞いて喜んだが、思いのほか散財はせず。「全大阪」という思いこみとの落差を感じてやや白けたせいもあるのかもしれない。歳末ぎりぎりには阪神百貨店でも即売会があるみたいだから、そこに期待しておこう。

 といっても収穫はそれなりにあった。『長物志一〜四』(平凡社東洋文庫)は副題に「明代文人の生活と意見」としてあるのが簡にして要を得た紹介になる。つまり士大夫の生活に欠かせないモノたち(家具調度から、庭木・禽獣に至るまで)の総ざらえともいうべき本。いってみれば『なんとなるクリスタル』(わーなつかしー)の中華ヴァージョンであるが、無論のこと風雅の趣は比べものにならない。「文人」という概念は、日本の江戸時代になるとかなり歪んだ形で理解されていたのではないか(それを必ずしも非難するのではない)。あとめぼしいものだと、キングズリイ・エイミス『去勢』(「あの」サンリオ文庫だす)、魯山人の展覧会図録何点か、大阪読売新聞社会部編になる『百年の大阪』全4冊。最後の本はさすが新聞記者の本だけあって、徹底して「関係者」の聞き書きを蒐集しているのが無類に面白い。ちょうど師匠の新刊『明治めちゃくちゃ物語 維新の後始末』『忠臣蔵まで 「喧嘩」と日本人』を頂いたところであるが、大坂(阪)から見た幕末・維新という構図もなかなか興味深いものなのかも思った。

 さて古本を買った後は近くの公園で箱寿司。人気のない公園のベンチで、コンビニのカップ味噌汁をすすりながらつまんでいると、なんだか浮浪者になった気分。ま、浮浪者は「吉野寿司」食わないだろうけど。

 ここからが時間的に行くと実はこの日の本番という恰好であった。タイトルの「掃苔」は要は墓参りのこと。といっても近親者の墓ではなく、遠い時代の「有名人」の墓を訪ねて回るという、風流なような殺風景のような遊びごとである。ちょうど谷町から南にまっすぐ行けば四天王寺さん(「さん」と付けたい)。道沿いには中寺・下寺と寺町が続いている。

 昔の墓の話を延々と書かれても辛気くさいでしょうから、端折りながら記しますが、まずは高津「さん」(と高倉稲荷)に詣で、すぐ南向かいの生國魂「さん」は失礼して横目で眺めるだけで通り過ぎ、あとは気の赴くままに坂(寺町のあたりは坂が多い)を上ったり下ったりしながら、田能村竹田、竹田出雲、岸本水府といった人たちの墓を見て来た。途中の清水寺(というのがあるのです)の鐘楼・本堂は工事中だったのは残念だが、全体に落ち着いていて散歩にはもってこい。たしか桂米朝師もこのあたりが大阪ではいちばん昔の面影を残しているとご推奨だった。

 しかし大阪に土地勘のある方なら分かって頂けると思うが、谷町四丁目から一心寺までの道のりはかなりある。しかも両手に古本の袋をぶら下げて歩くとなるとなおさら。

 そんなわけで、中津にたどりついたときには、主観的にはもうへろへろ。なんでいきなり天王寺から中津やねん、と思われるでしょうが、この日晩飯は「かんさいだき」の『常夜燈』で熱燗を楽しむ・・・つもりだったのだが、引き戸を開けると「ごめんなー、今日はもう予約でいっぱいやねーん」と店主の声。なんでオレはいつもこう詰めが甘いのか、と涙滂沱とかきくれて、衝撃失望のためにいっそうふらつく足でよたよたと駅へ向かう。

 いうまでもなく、ここでおとなしく帰神するような鯨馬ではござりませぬ。急遽『千成すし』に電話を入れて席を予約。横の客が何を食べても「まあおいしい」と言ってはデジカメで撮るような手合いであったので、こちらも一々出されたものを記すのが阿呆らしくなった。でも炙った蒸し鮑、それにつまみの合間に出た小松菜おひたし(たかがおひたしというなかれ。湯がき具合が絶品であった)などがよろしかったです。
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