ハンター坂を上がってすぐの『私房菜 広東料理えん』に予約を入れたのは、いつも水汲みをしている空男氏がイタリア語検定4級に合格したから・・・ではまったくなくて、新開地にあった頃のファンとしては、移転以来まだ一度も足を運んでいないことに忸怩たる思いを抱えていたのである。最近和食が就いて学ぶべきはフレンチやイタリアンより、中華のほうではないか、と考えているので、そのヒントを探すつもりもあった。こういう時和食以外は二人よりいなければ食べられないのだから(一人でも食えんことはないが、大幅に献立が制限されてしまう)、不便なものである。
いわゆる定番メニュの無い店だから、三日前に打ち合わせに行った。二人だから、たとえば魚の清蒸も大きなものを出してしまうと、それだけで腹一杯になってしまうし、また干し鮑の煮込みを入れるとものすごく高くついてしまうことになる。大体の予算と好みを告げて、組み立てを考えてもらった。
さて当日金曜日は諸氏ご承知のとおり、夕刻から急激に冷え込んで風もまた強い。すなわち美食を愉しむには絶好の天候。献立は以下の如し。
○前菜四品……蒸し鶏、サバフグの唐揚げ、皮付き豚バラの焼肉(シューヨ)、とこぶし(徳島)のブラックビーンズ蒸し
○ミル貝2種湯引き……本ミル貝(岡山)と白ミル貝(明石)
○フカヒレスープ……フカヒレ、えのき、筍、干し椎茸、金華ハム
○炒め物……活鮑(徳島)、赤貝(山口)、季節野菜
○煮込み……大干海鼠と冬茹椎茸
○清蒸……オコゼ(徳島)姿蒸し
○ワタリガニ(坊勢)葱生姜炒
○マンゴープリン
海鮮を多めに、出来れば海鮮ばかりで、というこちらの注文にがっぷり四つに組んでくれた品揃え。ミルに本ミルと白ミルがあるなんで、あたくし恥ずかしながら全く存じませんでした(前者ふうわりして穏やかな風味、後者はぷりぷりして幾分癖が強い)し、赤貝を炒めるなんて!という発想。火を通すことでかえって足、ヒモ、肝のそれぞれの食感の違いが際立っていた。
こういう品々を、古越龍山十年ものの紹興酒をちびちびやりながらつっつく快味はまさしくこたえられないものだった。味だけでなく、ここは目も愉しませてくれる。というのはオープンキッチンシステムになっているからで、龍が火炎を吐くような、猛烈な音で燃えるバーナーに鍋をあやつるところを見ながら食べることができる。自慢せず、卑屈にもならず訥々と語る主人の人柄も好もしい。食後プーアル茶をゆっくり飲みながら、当方が新開地時代に食べたミンチのハムユイ(塩漬け魚を発酵させたもの)蒸しの味をなつかしんでいると、ジャスミンライスと一緒に一切れ出してくれた。修業時代によくまかないで出たそうで、いわく「今でも時どき猛烈に食べたくなる」とのこと。
蟹やフカヒレはもちろん旨いのだけれど、ハムユイみたいな「庶民の味」(嫌いなことばだが)がたくさんある中華がもっとあればな、と思う。
この日は貝の工夫と干し海鼠(大好物)の味に、いくつかのアイデアを思いついたのも収穫だった。
また料理屋の記事になっちまったな。次は本の話ばかり並べ立てることにしよう。
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