幸せ?それとも不幸せ?

 テリー・イーグルトンの新刊『アメリカ的、イギリス的』(河出書房新社)を読む。題名通りの趣旨の本で、ということは大方察しがが付くとおりに、当代きっての毒舌の達人がレトリックの限りを尽くして「アメリカ的」なるものをこき下ろす訳だから、消閑の読み物としてこれ以上のものはない。

 イーグルトンはアイルランド労働者階級の生まれ。ケンブリッジ、およびオックスフォードで学んで、現在はダブリン在住。ということはつまり、名高いイギリスの階級社会の内実を、身をもって知る立場にあったわけだ。しかもそのイギリスは、フランスやドイツとは一線を画した、というか、ちょっと比較のしようのない「変人奇人ぶり」で有名な国なのである。だから一見威勢がよくって明晰極まりない口調も、子細に検討すれば幾重にも屈折したイロニーが透けて見えてくる。

 たまたま同じ時に、岩波現代文庫になったエドワード・サイードの『人文学と批評の使命――デモクラシーのために』を読んでいたので、どうしても比較したくなってしまう。サイードの文体はいつもどおりエレガントなものだが、パレスチナ問題に長くたずさわっていた彼が、アメリカ人文学の伝統とアメリカの教育研究制度にいささかナイーヴすぎるとも思える頌詞を捧げるのを見ると(むろん率直に批判している部分も多い)、逆にそこにもイロニーの音調が響いてきてしまうのだ。これはあまりにもひねくれた読み方だろうか。

 二冊はあたかも合わせ鏡のような効果をもたらして、かの強大な帝国が(つまり圧倒的な現実そのものである国が)、まるでとらえどころのない虚像の無限の連続であるように思えてくる。そういう意味においても、アメリカこそレヴィアタンにたぐえるのが相応しい国家なのだろう。

 他に、この一月で面白く読んだ本を。

五味文彦『王の記憶 王権と都市』
ジョン・バンヴィル『いにしえの光』
◎J.L.アブー=ゴールド『ヨーロッパ覇権以前 もう一つの世界システム』
ミシェル・トゥルニエ『イデーの鏡』
◎ミュリエル・ラアリー『中世の狂気』
柴田南雄音楽史と音楽論』
◎谷川渥『書物のエロティックス』
川出良枝編『主権と自由』(岩波講座政治哲学)
アイザイア・バーリンバーリンロマン主義講義』
東洋文庫版『本阿弥行状記』
池澤夏樹『氷山の南』

 最後の池澤さんの本は、ヴォルテールが書いたような哲学的コントの一つとして読んだ。この小説の魅力も、また欠点も同じところにあるのだろう。

 久々に同僚湘泉子を食事に誘った。いつも和食なので、今回は目先をかえてイタリア料理を、というご所望。三宮の『柏木』を予約した。

アミューズ なごやふぐのカルピオーネ、水茄子の生ハム巻き、イタヤガイ貝柱、トマト蜜煮、芽キャベツ、空豆、南瓜

◎前菜(1)五種類の豆と蒸し鮑のサラダ、ガルムを入れたヴィネグレットソース
◎前菜(2)穴子とアスパラのカダイフ巻き揚げ、鴨のフォアグラ、「(穴子寿司の)ツメ」風ソース

◎パスタ オマール海老のアメリケーヌ

◎魚 甘鯛松かさ焼き

◎肉 和牛ロースト


 豆のサラダと穴子がことによろしかった。前菜でカルッパチオなんぞを出さないのもよろしい。これでプーリアの赤2本とローヌの赤1本。面妖なのは、人気の店なのにこの日我ら以外一組も客がいなかったこと。あまつさえ当日入った予約はキャンセルされてしまう始末。おかげで主人とゆっくり話が出来たのは嬉しかったが。たいへん有益な情報も一つ手に入れたことだし。うっしっし。


アメリカ的、イギリス的 (河出ブックス)

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