遠雷

 七月は勤務シフトの関係で、ジムにはまったく行けず。ようやく「死のロード」から解放されたので、さっそく泳ぎに行く。元々頻度が減っていたので、二時間半泳ぎまくるとさすがにくたくたである。でも質のいい、心地よい疲労だし、コーチからも「ゆっくりやり直していきましょ☆」と優しい声をかけてもらえたし、充分に満足。帰り際、スーパーに寄って月曜からの弁当のおかずと今晩の晩酌のアテを物色。時季だけあって、ぷりぷりの穴子が安い。これは白焼きのあと、ほっくり炊いて穴子飯とする。あとは夏野菜の味噌炒めと、三つ葉と薄揚げの和え物(胡麻・醤油・鰹節)、ひじきの中華風酢の物で弁当の見込みは立った。さてアテはなんとしょう・・・とこれも穴子におとらず立派な活け蛸が。いつもだったら、きしきしに茹で上げたあと、茗荷・若布・胡瓜と酢の物にするところだけど、この日はだいぶカロリーを消費したというおごりがあったためだろう、ふらふらと誘惑に負けて、たこ焼きにすることにした。

 たこ焼きと言っても、具は明石蛸と刻み葱のみ。また生地も卵と出汁たっぷり、粉はうんと控えた、いわゆる「明石焼き」に近いもの。それでもふだん晩飯からは炭水化物を排除してるので(もちろん液体はこの限りにあらず)、なんだかものすごく後ろめたい。

 お医者さんごっこでも万引きでも(今はやっておりませんよ)、この一抹の後ろめたさが快美の源泉なので、ですからこの日の夕食はよろしかった。きんきんに冷えたビールがなんぼでも喉を通る。明石焼き風たこ焼きは都合三十個。それでも足りず、翌日以降のアテとして作って冷やしておいた、身欠きにしんとなすびの煮物(食べしなにおろし生姜をたっぷり落とす)を取り出す。すだち果汁を垂らした焼酎のロックがなんぼでも喉を通る。

 ・・・明日からまた水泳に精進せねば。

 ジムに行けなかったぶん、割合本は読めた。といってもサラリーマンの読む量などたかが知れているけれど(逆に人文系の大学院生なら最低年に千冊は読んでほしいものである)。

山口昌男『歴史・祝祭・神話』…『道化の民俗学』や『「敗者」の精神史』などのいわゆる主著より、『本の神話学』とか本書とかの系統を好む。
◎吉田憲司『文化の「発見」 驚異の部屋からヴァーチャル・ミュージアムまで』
阿部謹也日高敏隆『新・学問のすすめ 人と人間の学びかた』…対談形式で読みやすいが、千両役者が二人とあって、どの発言もじつに重い。というか実がぎっしりつまっている。無精で、感心したことばの抜き書きをしておらず、ここでご披露できず、残念。
成田龍一歴史学のスタイル 史学史とその周辺』
小野紀明『政治哲学の起源 ハイデガー研究の視角から』…「起源」という、このいかがわしくも甘美な概念の起源がちょっと、気になっている。後述する『言語起源論の系譜』を読む(というより、そこから発展させていく)いいきっかけとなった。
イタロ・カルヴィーノ『水に流して カルヴィーノ文学・社会論集』
沓掛良彦エラスムス 人文主義の王者』
寺田博『文芸誌編集実記』
村上陽一郎『エリートたちの読書会』…という書名にどきっ、とさせられる。その意味は各自で確かめられたし。全体としてはなんだか執筆の動機と構想がよく分かんない本。村上陽一郎くらいの知性なら、もっとこういう形式で堂々と大冊を出してもいいのに。
野見山暁治『アトリエ日記』…この著者には初見参。ちぎっては投げちぎっては投げ、という趣の散文がいい。
隈研吾『僕の場所』…何を語っていても、結局は著者が幼少の頃に住んでいた大倉山の家が《聖典》として引き合いに出される。むろんこの本はそこがいいのである。吉田健一が若い頃建築家を目指してたとは知らなかった。
◎八木沢敬『分析哲学入門』…著者が前書きで期待するような、「鳥肌が立つ」ほどの分析哲学ファンにはならなかったけれど、自分が文章を書く(つまりものを考える)時の、ひとつのいい参照枠が出来たように思う。分析哲学の方法によってこそ形而上学が語れるというのも分かる気がした。
◎小川和也『儒学殺人事件 堀田正俊徳川綱吉』…本書の論旨とはちとずれるが、綱吉は名君だったか暗君だったかという議論がかまびすしい。しかしこの議論はどこか腑に落ちない。江戸時代のような、「芸術的に」統治制度が整ったレジームにあっては、そもそも名君/暗君と論われるような君主は土台迷惑この上ないのではあるまいか。
◎越智敏之『魚で始まる世界史 ニシンとタラのヨーロッパ』…十八世紀まで、ヨーロッパの食生活(タンパク質)は魚が支えていたのだ、という、あっ!という指摘に始まって、魚だけに目からぽろぽろぽろぽろ鱗が落ちる本。これも詳細の引用は省く。

 蕪雑な紹介で申し訳ないが、ま、もともと学者・書評家の研究余滴や書評ブログではないのですから、ご寛恕をこう。

 しかしなんと言っても七月の収穫は互盛央『言語起源論の系譜』である。久々に圧倒的に面白い思想史を読ませてもらいました。出てからだいぶ経ってるし、「双魚書房通信」で取り上げるのはどうかと思うが、しかしさらっと紹介するだけではもったいないなあ、と考えつつ、焼酎をくびりとやると、ハーバーランドの花火大会、最後の一花とおぼしき音で窓がびりびりとふるえた。


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