ずこうのじかん

 連休のまっただ中、紅葉もミュゼも見物するわけではなく、むさ(暑)苦しい男二人が昼間っから鮨やのカウンターでちびちび、いやぐびぐびやっております。

 阪急六甲南の食器・雑貨屋「フクギドウ」で斉藤十郎さんというスリップウェアの作家さんがワークショップをしている。それに誘われたので、近いのをいいことに久々「彦六鮓」で昼食というか昼酒をやっているわけ。お相手は誘ってくださった「いたぎ家」アニー。長い彦六さんの歴史ではおそらく初めてサッポロビールが登場していたので、サッポロ・ファンのアニーおよび当方がたちまちに二本を空けて、冷や酒(冷酒にあらず)に切り替え、昆布〆と穴子の焼いたのとを肴にさらに呑む。休日のお昼、というと雑誌だか食べ丸太だか仕込みのマダムまたはマドモワゼルの方々(糞婆アまたはすべた軍団とも云う)がいらっしゃるかと怕れていたが、横は静かに鮨を食っている男の一人ものばかりであった。こちらは小さなちらし(飯が旨いのだが、もう上(大)ちらしを食べきる自信がない。なんたる衰弱ぶり)、アニーは盛り合わせで食事を終えてギャラリーに向かった。ギャラリーでアニー嫁じゅんちゃんとも合流。

 スリップウェアはイギリス渡りの作法(さくほう)。生地の上にスリップと呼ばれる白い化粧土を流して、針などで模様を付けていくというもの。この店、およびアニーのところで作物は見慣れていたものの、今日はワークショップ。つまり当方も実地に作らなければならぬ。

 マイスターの斉藤さんはいたって飾らない人柄で、さらさらと説明を終えると「ま、三回まではやり直ししてもらっていいですから気楽にどうぞ」とおっしゃる。いきなりの「始め。」であって、参加者一同尻込みしてる中を、アニーが果敢にも挑戦。器に文様を描くというよりは、大甕を叩き割るのにふさわしそうなごっつい腕をふるわせて、代赭色のピザ生地みたいな土台に白いソースを垂らしてゆく(孔をあけたカレー粉や乳酸飲料の缶に管を突っ込んで作った道具がほほえましい)。これは棟方志功描くところの天人の顔のデフォルメか、それとも太陽の塔のパロディーか・・・とこちらが考えてるうちに、さっさと三度目の挑戦に移っていた。周りをぐるぐる縁取った真ん中に鎮座したのは、どうやら富士であるらしい。

 センスの程がうかがえるというものじゃ、ぬはは。などと内心小莫迦にしていたのでありますが、いざ手にとってやってみると、やはり難しいものですな。いいですか、嗤わないでくださいよ、家を出るときにはパウル・クレーの「船乗りシンドバッド」ふうの童画っぽい魚に波をあしらった構図を考えていたのですが(わはは)、出来上がったものは、どうみても中風で口のきけないじいさんが、いまわの際に食べたいものはと聞かれ、震える指でようよう描いた鯛焼きみたいな図柄であった。眼高手低を地で行くお粗末さであった。早ければ年内には焼き上がるそうだから、届いたら肝をなめるつもりで屈辱を噛みしめながら使うことにしよう。もちろん鯛焼きをてんこ盛りにして。

 「フクギドウ」を出た後、小学校の昼下がり、工作の時間が済んだ時のような妙に懶くまた放恣な気分のまま、三人でぶらぶら王子公園まで歩く。都賀川ぞいの紅葉黄葉がうつくしい。ここは桜の見どころでもある。桜の葉の色が出たのは、もみじ楓のように妍を競う鮮やかさはないものの、佐伯祐三の絵のような閑寂な風情があってなかなかよろしい。

 こういうところで、林間酒ヲ暖メ紅葉ヲ焼ク、という感じで燗酒を飲んだらさぞ気分がいいだろうと思いつつ、水道筋商店街真ん中あたりの某居酒屋に入る。路地の奥にしては天井も高く、奥行きもある店。酒の種類も多い。きらずや豆腐を主に出しますという趣向もよし、ただしここもいささか眼高手低の傾向なしとせず。窯を出した時の、目を見張るような窯変ぶりに俟つ、としておきますか。

 この店の後はこれも久々・・・というよりは二十年ぶり二回目となる串カツの「一燈園」。レバーやクジラやジャガイモのカツでビールをごきゅごきゅやりながら(それにしてもよう食う/呑む三人ではある)、遠足は終了と相成りました。
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