双魚書房通信・二〇一四年回顧(1)

 ここ十日ほどの間に、二度猛烈な胃痛を経験した。いずれも夕食を終えてかなり経ってから。二度目は夜中に痛みで目覚めて、そのまま朝まで眠れず。小さいときから痛みに関しては辛抱強かった(逆に欲望には容易に屈服する)人間がエライと感じたのだから、やはり相当な痛みだったと思う。

 そういや、健康診断ではじめて、肝臓の数値が引っかかってたな。そろそろ年貢の納め時か。人間到る処青山あり。夜半に嵐の吹かぬものかは。中道に斃れてなお悔いなし、という澄明な境地には遠い身のこととて、おそらく俗物らしく胃に良いものをと小心に心がけることになるのだろう。居酒屋に行っても「オレは胃を痛めているのだから」と、うんと苦い地ビールを飲むように心がけ、つまみも「なにせ胃がいけないのだから」とゴーヤの酢の物とかせんぶりのお浸しとかを頼む。さらに「肝臓が弱ってるのですから」と、チーズや豆腐を山盛りにしてもらう。どこか根本的に間違ってる気もするが。

 問題は来週五日も休暇が取れてしまい、あまつさえ金沢(金沢!)に遊ぶ予定を立ててしまっていることである。どうなることやら。

 さて、人並みに十二月は何かと忙しいから、早めに今年読んだ中でとくに面白かった本をいくつかご紹介。出来るだけ毎日更新していきます。

◎パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ 二〇世紀史概説』(阿部賢一他訳、白水社)…題名の物々しさとは裏腹に、ほとんど断章といっていいような短い文章が連なる。しかも一つ一つの文章は大半がエピソードに属するもの。第一次大戦中、クリスマスになるとドイツ/イギリス、ドイツ/フランス軍のあいだでプレゼントが交換されたとか(プレゼントを運んだのは軍用犬)、一九八六年には強制収容所の囚人服を着たバービー人形が登場したとか。その上、断章の時間的・因果的秩序は寸断され、シャッフルされている。書名には「概説とうたいながら概説ではない」というアイロニーが込められている、と著者はいうけれど、このアイロニーはもう一段屈折している。すなわち二度の大戦を経験することになった《あの》世紀(というほど、われわれは距離を置けているのだろうか)をまるごとつきつけるためには、一見異様なこの叙述のスタイルこそが最適なのだと、読み終えてしたたか実感させられることになる。逆に言えば、この本の薄さ(邦訳にしてなんと僅々一六〇ページ)、そしてこの優雅で皮肉な語り口でなければ、ジェノサイドと大粛清、毒ガスと核兵器、消費文明とカウンターカルチャーが騒々しくつめこまれた百年の物語は到底読めたものではなくなっていただろう。いくつもの共通項を持ちながら、世俗的・形而下的に徹底した十九世紀とは違って、二十世紀は「神話」の世紀なのである。たとえそれがいかに暗鬱で滑稽なものであろうと。

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)

エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)

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