厄介な男

日曜日は午前中から水汲み。例の如く、後輩・空男氏に車を出してもらう。前回、たしか昨年の十一月末くらいに汲みに行った時、湧き水を誘導するパイプの継ぎ目がずれて水量が落ちていたのが気になっていた。今までずっとお世話になってきた大切な水源だから、そのままだったら、ホームセンターで工具を買って修理するつもりで来たのだが、どこかのどなた様がきちんと繕ってくれたらしく、水勢は回復。感謝感謝。

拙宅に水を運んだ後、我が儘を聞いてもらって(毎回我が儘を言ってるけど)、神戸市は西区、伊川谷にある太山寺に向かう。以前インターネットで画像を見かけ、感じが良さそうなお寺だなと思っていたのである。

当方のように、大阪生まれ、神戸に来たのは途中から(それでも大阪より長く住んだことになった!)、しかも住居は灘区・兵庫区にしかおいたことがない「神戸ハーフ」の人間にとっては、西区特有の、のぺーっとした広がりはいつも戸惑いを覚える。神戸市民以外の方ならなおさらそうだろう。一言でいえば、ちっとも神戸らしくない。マンションや分譲住宅が櫛比する西神南西神中央あたりならまだしも、伊川谷の少し奥に入れば、「ココハドコデスカ?」とききたくなるくらい。うねうね走る道の両側には田畑が続き、建物はみな低い。

もっともこれは贅沢とも考えられるので、いわゆる地方の都会ならともかく、たとえば大阪市内でこんな環境はどこにも見つかりそうにない。この、田園がふっと都市の横に寄り添っている風情が、まあはっきりいえば少々田舎っぽいところこそが、神戸のいいところ、かの有名な「神戸の暮らしやすさ」なのである、と独り合点している。

太山寺はまさにそのような田園地帯の真ん中、どころか周囲を穏やかな山容の山々に囲まれる所にあった。今は農家の間を抜けて参詣する恰好になるが、かつてはさぞかし多くの塔頭が並んでいた、と思われる。

創建は奈良時代。鎌倉後期に火災で焼亡したとはいえ、本堂は神戸市唯一の国宝建造物。国宝か重文かという区分けはどうでもよろしいが、昭和の修造で多少彩色は派手といえ、大きく横に張った姿は簡浄かつ雄勁。なによりこの日は天気がよく、澄んだ大気の中、ほとんど他に参詣者を見ないところにどっしりと構えている眺めは、実にうつくしい。ここは天台宗

天台の、それも江戸期以前の天台の寺院が好きである。真言のおどろおどろしさはなく、真宗の威圧感とも異なり、法華の騒々しさとは無縁で、それでいて禅寺特有の森厳さの衒いも無い。聖(きよ)らかさとおっとりした趣が自然と融け合っている感じがいい。

本堂裏、「奥の院」に通じる谿川に音を立てて水が流れてるのもよい(空男氏曰く、「上流だから岩がごついんですな」)。硬骨の儒者・熊沢蕃山が幽閉された遺跡が、「地元ゆかりの名士」的に仰々しく顕揚もされず、ひっそり残っているのも好もしい。

つまりたいへんいいお寺で気に入ったのですが、周囲の環境と見事に調和した寺容を単に見物しているだけでは済まない。昨日相方に指摘されて初めて、自分が本厄の歳であることに気がついたのである。厄除の寺ではないけれど、本尊は薬師如来ではあるし、怪我病気に関してはまあ「管掌領域」といっていいでしょう。今まで十杯呑んでたところを八杯にします、二十時間呑み続けてたところを十八時間くらいに自制しますので、どうぞご加護あらせたまえとお祈りする。

参拝の後、タギー・タクー(『いたぎ家』弟)のご教示により(タギー・ブラザーズは伊川谷を少し下った明石の出身)、『たかを』なるうどん屋で遅めの昼飯。流行り(もう流行は過ぎちゃいましたかね?)の讃岐うどんのシコシコではなく、むかしの大阪風うどん、つまり柔らかめでもったりしたのどごし、出汁も「カツオの香りがとたんにぷーんとくる」てなパッチもんではなく(吸い物とは違うのであるから)、含んだ後から分厚い旨味がじわじわくるようなつくり。当方は「ぼっかけ」、空男氏は「花かつお梅」。憾むらくは子ビールも酒も献立にのってないこと・・・いやいやお薬師さまに誓願した舌の根も乾かぬうちの昼酒はどうも具合が悪いな。これはなくて幸いのアルコールだった、としておこう。

田んぼ畑の広がる区域だと、最近は農家の直売所が出来ているもの。せっかくここまでのしたのだから、とまたもや我が儘を言って、近くのその種の施設に車を走らせてもらった。大して安い訳でもなく、またそれほど珍しい品揃えでもないけれど(一月だとゆーのになぜに芹をおいとらんのであるか)、まあお景気ですからな、壬生菜・かぶら・白菜を求める。これは全部漬け物にするつもり。来週は朝昼晩と漬け物になりそう。せっかく節酒してもこれでは高血圧か胃がんになってしまいそうな。

冬菜漬けてしづめかねたる旅ごゝろ 碧村

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