鬼をやらふ

 忙しいなんて汗臭いことはなるべく書きたくないのだが・・・忙しい。もっともいくらでも時間が余っている時に比べてこんな状況のほうが無用の本、いやこちらは学者ではないので有用の本というものがそもそも無いのだが、ともかくそれこそ閑つぶしの読書に関してはかえってはかがいくこと、皆様ご存じの通り。

 読み上げたまま本棚にきちんと収めることもせず、部屋の隅に雑然と積み上げているとなんだか書物の怨念がじわりと空気の底にたれこめるようでどうも気分が悪い。ここらで名をあげてご成仏願うこととしましょう。

ジェフリー・フォード『白い果実』『記憶の書』『緑のヴェール』(国書刊行会)…三部作。山尾悠子が訳した第一作がやはり格段に面白い。というか、段々おもしろさが落ちる。
○ポール・ホフマン『天使のはばたき』(講談社)…それはこの作品でも同じ。『神の左手』『悪魔の右手』につづく完結篇。第一作では文字通り震撼させられたのだが・・・。あらためて現代ファンタジー乃至伝奇小説の幕のおろし方の難しさを思う。
○馮驥才『陰陽八卦』(小学館文庫)…こちらは対照的に、じつにあっけらかんと物語の世界が完結(崩壊?)する。『東京夢華録』や『長物志』、『燕京歳時記』などを横に置いて、ゆーっくりといまだ西洋文明の毒が回りきっていない世界にひたりきるのがおすすめ。
仲正昌樹マックス・ウェーバーを読む』(講談社現代新書)…仲正さん、ずいぶん贔屓にしてますけど、これは新鮮味が足りず。ウェーバーに対してうやうやしすぎるからなのかな。
鈴木健一『古典註釈入門 歴史と技法』…注釈のフォーマットに光を当てたとこが興味深い。「型」によってこそ見えてくる視点もあるだろうし、またそのために書けなかった内容もあるはずなのだ。
○『菜の花集 木下夕爾句集』(ふらんす堂文庫)…木下夕爾は俳句もいいとかねて聞いていたが、たしかにいい。俳諧ではなくて現代俳句だなあと思ったのもたしかだけど。
佐々木健一『論文ゼミナール』(東京大学出版会)…代表的な美学者だけに、そもそも論文のスタイルの違いとは、という概念規定からきっちり始める。重要な論文を、細かくメモを取りながら読めというのは万古不易の教訓だろう。
西洋古典叢書ルキアノス全集『食客
○ウォルター・マップ『宮廷人の閑話 中世ラテン綺譚集』…題名ほどの「綺譚」ではないが、まあ珍品とはいえる。上のルキアノスと合わせ、こんなシブイ古典が地道に刊行されるのだから、まだまだ現代日本も捨てたものではない。
木田元『哲学散歩』…遺著ということになるのだろうか。病床なお書を廃せず、悠々と文字通りの哲学史散歩にふける風情がうれしい。
竹内栖鳳『栖鳳藝談』…何の機縁で手に取ったかは忘れた。手に技もつひとの文章はやはり面白い。
○市川裕『ユダヤ教の歴史』(山川出版社
○シュロモー・サンド『ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか』(ランダムハウス講談社
○ピンカス・ギラー『カバラー』(講談社選書メチエ)…の三冊はイェルシャルミ以降続いているわが「ユダヤ熱」による読書。
白倉敬彦他『浮世絵春画を読む』(中公文庫)…浮世絵に出てくる醜男とか、浮世絵と歳時記とか、一篇一篇の論考はみな興味深いのですが、通して読むとさすがに胸焼け胃もたれがしますなあ。
○シーリア・シャゼルほか『現代を読み解くための西洋中世史  差別・排除・不平等への取り組み』(明石書店)…それこそユダヤ人初め、ハンセン病患者など「差別・排除・不平等」が横溢した西洋中世ではあるが、それにしても近代は何故かくも息苦しいのであるか。
岡田英弘著作集『シナ(チャイナ)とは何か』(藤原書店)…こちらの常識をまるごとくつがえすような知見がぎっしり。じつに刺戟的でおもしろいが、いかんせん分厚い全集を通読すると、あまりにも繰り返しが多すぎる。編集部の見識を問いたい。
○ニコラス・フィリップソン『アダム・スミスとその時代』…あちこちの書評で好評だったからあげるだけで充分でしょうか。ベンサムといい、スミスといい、オプティミズムの思想家に限って(あ、イギリスの、という限定も付きます)、なんでこんなにブキミに暗いのであろうか。わかんないなー。

 最後の大鬼ともいうべきは、そう、佐藤良明訳になる、トマス・ピンチョン重力の虹』上下。二連休や三連休くらいではとてもじゃないけど取っ組めなさそうなので、いまだに積ん読・・・毎日ちらりと見ては「まだこれからこれが読めるんだぞ」とほくそ笑み、しかしその一方で少しばかり胃がきゅっと痛くなるのも事実なのである。

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