二都物語

 都市型というのか、陸上型というのか、ともかく海岸沿いではない立地の水族館といえば、これまで池袋サンシャインに行ったことがあるだけ。ペンギンやペリカンがビルの屋上をよちよち歩く非現実的な光景が印象に残っているが、京都水族館はまず規模の雄大にびっくりさせられた。へっぽこアクアリストとしてはまず、「日淡だけならともかく、これだけの大きさで海棲生物を飼育するのは、水の管理が大変だろうなあ」と思う。注に言う、「日淡」とは日本産淡水魚のこと。

 オオサンショウウオがウリらしい。入館してすぐの水槽に1メートルはあろうかという尤物がごろごろしておる。全体に、江戸川乱歩調に妖しく蠱惑的な雰囲気はかけらもなく、当方には少し健全すぎるような印象もあるけど、プロジェクション・マッピングやら、クラゲの大水槽やら、まあまあ今風というつくりなのだろう。週末ともあって家族連れやカップルで館内はいっぱい。こういう時はそーゆーものとして愉しまねば損をする。というわけで、こちらも寒さに震えながらイルカショーでは手を叩き(イルカプールの向こうに梅小路公園が広がり、さらに奥には東寺の塔が見えるという配置が心憎い)、クラゲのストリップも嘆賞しました。

 朝早くから動いているので、館を出た一時過ぎには猛烈に空腹。といっても、京都駅付近には双方ともに土地勘が無いので、とりあえず地下鉄の五条まで歩いた。相方いわく、「出来れば京都に住んでみたいわあ」。「こんなとこよう住めるかい」。これはこちらのせりふ。たまに来てぶらぶら「絵になる」風景を見物し、旨いもんを食って帰れば充分、という立場である。夏は暑いし冬は寒いし、人間はヤラシイし、観光客は多いし・・・伝統から吹っ切れた港町特有の風通しの良さにずっぷり浸かった人間だからこそ、古都の諸々のしがらみが鬱陶しいのだろうか。しかし金沢なら職を換えてまでも住みたいと熱望しているのだから、まあ要するに相性の問題ということなんでしょう。

 昼食は五条近くの蕎麦屋。昼間から熱燗をきゅーっきゅーっとやっているオッサンを、呑まない方が幾分軽蔑気味に見ている。陽は射しているといえ、この底冷えの中歩きづめなのだから、これくらいは大目に見てもらわねばならぬ。ちなみに手打ちの蕎麦はともかく、汁はかなり甘い、というか薄い。東京の人間がこれ食ったらさぞかしバカにするんだろうな。

 昼からは、相方に連れられて三条付近をぶらぶら。大きな寺を見てもさほど心動かされない・・・というか観光寺院の売僧の顔を浮かべて癇筋が立つ性分ながら(神社は別)、町中にゆかしい手職・商いの家が、むろんそれすらかなりの程度観光化されてはいるものの、あちこちに見られるのに対しては、素直に敬服する。何度も道を曲がり損ないながらたどり着いたのは、『マリベル』なるチョコレートの店。バレンタインのプレゼントをここで買ってくれるらしい。極「左」のブログ子であるが、チョコレートをつまみながらコーヒー、紅茶というのは大好きなので、これは嬉しい(バレンタインでなくても買って欲しい)。なんでもニューヨークの他は東京と京都にしか店を出していないそうで(しかし、よく考えてみたらこういう店、多いよな)、店内大賑わい。なかにはどう考えても「ハウス!」と言いたくなるような柄の悪ーいばばあ・娘・孫一家なぞの姿もあり。孫は試食のチョコを、口の端びたびたに汚しながらなめ回しておった。大阪よりも京都のヤンキーのほうがたちが悪いという話を聞いたことはあるけど・・・。

 チョコの後は、錦市場を通って祇園まで歩く。お定まりの観光コースで我ながら気が引けるような選択だが、じつは二人とも大の市場好き。こちらはもっぱら野菜と鮮魚、相手は乾物とお菓子を見てわあわあきゃあきゃあと騒ぎつつ歩く。河豚や甘鯛(グジゆうやつでんな)などの高級品はむしろどこの魚市場でもお目に掛かるが、やはりちりめんじゃこの上等品だとか、麩の種類の多さなどは日本のどこでも無いものだろう。夕食の店を予約してたから買い物は出来ず、「次は買い物だけにここに来よう」と二人でコーフンする。

 さて、その夕食は花見小路の中の某店。焼き鳥を食べさせていればシヤワセというヤツなので、チョコのお返しに、ちょいと高級そうな店を選んだ・・・・と書けば、読まされる方はそれこそ胸が悪甘くなるやもしれませぬが、そうそう型どおりにスウィートでメロウなアニバーサリーにはならんもんですな。この焼き鳥屋の選択が大失敗。店員の気取り、大仰な品書きの能書き、こけおどしの店構えという、いってみれば「京の食べもんや」(食べもんには限らないか)の悪いとこばっかりを集めたような店であった。ことに、接客のメインであるオールバックの気障なオッサンの態度といったら・・・見る見る険悪な表情に転じていった当方を見て、彼女がむしろ吹き出すのを必死にこらえていたくらいである。上方落語の大作『はてなの茶碗』に曰く、「京の人間の商いはえげつないさかい」。横には人品いやしからぬ初老の夫婦。「こんな美味しい焼き鳥は食べたことがなかったから、東京からまた食べに来た」そうな。ご夫人のそのことばを漏れ聞いて、当方ら二人、またしても笑いを噛み殺す。まあまあ、東京あたりのスノッブというかミーハーには最適な店なんでしょう。いや、狐と狸の化かし合いといいますか。ま、ともあれ兵庫くんだりの田舎もんには、充分愉しめた一日でございました。

 京都から帰った翌日、二人してぶらぶら新開地まで歩き、『グリル一平』にてグリルドチキンと海老フライ・オムレツ・シチューのセット、マカロニイタリアンをぺろりと平らげる。B級趣味というやつは気にくわないが、むろん京懐石でなくてこんなのもいい。
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