多島海

 伊勢国は鳥羽に遊ぶ。

 鳥羽水族館はいつ以来だろうか、閉館の三時間前に入ったのだが、とても全部回りきれないほどだった。施設も立派で、ショーに出てたオットセイたちも可愛らしい。ただ、おっそろしく豊かな伊勢の海を前にした水族館としては、もっと地元の海の生態展示に力を入れてもいいのでは、と思った。

 あえて望蜀の嘆を記したのは、晩飯に食った魚がすてきに美味かったからだ。前日に思い立った旅行だったので、ろくに計画もせず、変哲もない構えの店に入ったところ、予想に反して(ごめんなさい)地蛸の蛸ぶつ・一本釣りの鯵の刺身・煮穴子浅蜊の酒蒸し・黒あわびのバター焼き・真子鰈の塩焼き、どれも絶品。身がそりくりかえるほど新鮮な鰈の、味はいうまでもなく香ばしい匂い、二人とも一箸食べて、思わず目を見合わせてしまったほどであった。こちらは無論地酒を冷酒でぐびりぐびりとやりながら。呑めない相方も杯ひとつふたつ付き合ったのは、この地酒がなかなかいけるのもあっただろうけれど、やはり魚の美味さによるところが大きい。

 そうそう、城跡の旧天守から見下ろした湾の眺めも逸してはいけない。風光は明媚を通り越して絶佳というのに近い。一瞬、ヘルダーリン歌うところの『多島海』、「いつもやさしい原初の微風が/眠るものをめぐってそよぐ」母なる海という概念を感得したように思った(川村二郎訳)。

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