陳大人追悼

 遅ればせながら。陳舜臣さんの「わが三冊」。

(1)『阿片戦争』(講談社文庫)・・・まあ、これは動かぬところでしょう。
(2)『茶事遍路』(朝日新聞社)・・・(1)の副産物として成った本。茶という、嗜好品にして世界史をも揺り動かした摩訶不思議な飲料の源流を探る旅。中国史のスケッチ、茶をめぐる詞華集も兼ねる。
(3)『美味方丈記』(中公文庫)・・・これは完全に個人の趣味。悠々たる筆致の中に、歴史への洞察がにじみ出るのはさすが。

 もちろん地元神戸の代表的な文士でもあるわけだが、学殖識見、いずれをとっても巨人級のひとだったと思う。ぼくは中国史方面から見ることが多いのだが、ミステリー作家としての再評価もまたれる。


 さて、ここからは五月定例報告であります。

◎小林道憲『芸術学事始め 宇宙を招くもの』(中央環境審議会)
◎伊原弘編『「清明上河図」と徽宗の時代、そして輝きの残照』(勉誠出版
◎岩間眞知子『喫茶の歴史 茶薬同源をさぐる』(大修館書店)
◎石川達夫『プラハバロック 受難と復活のドラマ』(みすず書房
森村進法哲学講義』(筑摩書房)・・・骨格は学説史の整理なのだが、著者の関心も見えてくる。論点が明瞭にされているので、ハート『法の概念』のまえに読んでおけば、と思った。
筒井康隆『創作の極意と掟』(講談社
いしかわじゅん『漫画の時間』(晶文社)・・・絵、物語、作者の資質にまでおよぶ、丁寧な批評。柴門ふみへの批判は完全に「当たり」であろう。
田中優子編『日本人は日本人をどう見てきたか 江戸から見る自意識の変遷』(笠間書院)・・・飯倉洋一先生のブログで知った。忘却散人もお書きになっているが、宣長朱子学の類比は斬新な視点。そもそも宣長の神国思想自体からして、朱子学の普遍主義なしには成立し得なかったのではないか?
◎二宮正之『文学の弁明 フランスと日本における思索の現場から』(岩波書店)・・・エリート臭が鼻につくものの、そういう点も含めて現今珍重すべき本、かもしれない。
中井英夫『ハネギウス一世の生活と意見』(幻戯書房)・・・エッセイ集である。
◎岩佐美代子『和歌研究 附雅楽小論』(笠間書院)・・・宣長と、そして折口信夫に深い関心を持つ人間にとっては、「玉葉風雅」問題はつねに《ひっかかる》ポイントになる。
◎西本晃二『ルネッサンス史』(東京大学出版会)・・・先月の『折口信夫』に並ぶ超・大著。ブルクハルト以来の「文化・芸術」重視に対して、社会システム、とくに経済・技術的な視点を全面に押し出す。といって別にマルクス主義ではありません。叙述の筆がすべりすぎる所なしとしないが、まあ、これからのスタンダードとなるのではないか。出来れば分冊で刊行していただきたい。
◎瀬谷幸男・狩野晃一編訳『シチリア派恋愛抒情詩選 中世イタリア詞華集』(論創社
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