人はパンのみにて生くるにあらず

 ピクニックなんてピンクピンクした語感の、不惑を超えた酒呑みにふさわしくないこと甚だしいが、木洩れ陽のした、せせらぎを聴きながら、バゲットにローストビーフ挟んでぱくぱくしてるんだから、これはまあ、ピクニックと言うほかないでしょうな。

 場所は奥須磨公園。家族もなければクルマにも乗らない鯨馬子がこんな場所を知ってるわけはないので、案内は『いたぎ家』アニー&順ちゃん。『いたぎ家』で隣り合わせた方が、アニー最近の御贔屓に係るパン屋さんで、そのパン屋さんは奥須磨公園のすぐ側に店を出している、一度そこでパン・ピクニックをしませんか、という話の運びであった。

 地下鉄妙法寺駅から横尾団地に沿ってだらだら坂(というよりはキツいかな?)を上り、スーパーでビールやらチーズやらを買い込む。友が丘高校の裏手からすっと坂を下りると、大げさでなく目を瞠るばかりの緑の塊が見えてきて、それがすべて公園を成しているらしい。公園といっても、白々と芝生なんぞに整備された味気も色気もないヤツではなく、七つの池に深い森、それらをぬって遊歩道がうねうねと延びて、おまけに小川まで流れていようという贅沢な空間。バーベキューが出来る一角こそ家族・グループで多少込んでいるものの、一歩外れれば、幽邃と形容してもおかしくないような緑陰にぽっかりと忘れられたような四阿が姿を見せる。

 一言でいうとすこぶる気に入りました、ここ。桜や紅葉の季節は見事な眺めらしいが、花のひとつもない今だって、充分に愉しめると思う。眼の法楽に加えて、冷えた缶ビールに「味取」(というパン屋さんなのです)の美味いパンがあるのだから、こたえられない。この「味取」さん、御主人はオトコマエで誠実、奥さんはキュートで、肝心のパンは天然酵母使用とかでクリームチーズやローストビーフの助けが要らない程の味。いうことなしのお店であります・・・いささか拙宅から遠いのは難無しとしない、と言うべきかもしれないけど、ここでパンを買って奥須磨公園で食べるという余慶があると思えば、むしろお釣りがくるようなものである。バーベキューだのカレーだのという無粋な料理よりも、瀟洒にサンドイッチか海苔巻きなぞがふさわしいかと愚考します。

 下山はしかし、三時半。このあと夕方からは『播州地酒ひの』御大を、今度はこちらがご案内して王子公園で呑もうという企画なんである。

 家のドアを開けるまでが遠足とやら。その伝でいけば、この日の遠足は正午の集合に始まり、えんえん半日にわたったことになる。一軒目は『よしみ屋』で日本酒。御主人が『ひの』さんところの客だったらしい。次はザ・王子公園居酒屋『高田屋』。ここは失礼ながら、三軒目の『串カツふなこし』の順番待ち・・・で入ったつもりだったのですが、結局サッポロの大びん、ぺろりと四本空けちゃってましたね。まあ、酒豪三名+αなんだから、これくらいでふつうとするべきか。

 しこたま串カツを食べたあと、タクシーで三宮に戻り、いかなる魔の魅入ったものやら、『テラサナ』さんにまでお邪魔して、もちろん赤ワインを飲みながらカニミソのパスタ(二皿!)だのサーロイン(!)だのを平らげたのでありました。いやあ、あのパスタ美味かったなあ。

 昼からのアルコールの影響でピクニック組はかなり狂躁状態に陥っていたこともあろうが、さすが三宮の首領(ここはどうあっても「ドン」とお読み下さい)だけあって、なんともはや話が凄いのである。名を出せば誰だって知っているあの店この店の裏情報、アニー夫妻とは違って、完全素人の当方、なんだかはじめからしまいまで目を見張り口を半開きにしたアホ面でお話をうかがっていたような気がする。

 バルザックだったら、これだけの材料があればすさまじい迫力の長篇をものしてるだろうなあ、と浅学非才を嘆きつつぷらぷらと夜風涼しい三宮を西に、家路を辿る。

 なんせ遠足の途中であるからして、寄り道はなし。
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