ちゅうちゅうたこである

 半夏生なので蛸を買う。

 農山漁村文化協会の一大叢書『日本の食生活全集』を読んでいると、「半夏生」なる歳時が何度も何度も出てきた。田植えが終わって一休み、という区切れ目らしい。その時に蛸を食べる風習が日本のあちこちに残っているのは、「植えた麦の根が地面によく吸い付くようにという願いを込めて」とか、もっともらしい説明がなされていたが、要はこの時期の蛸が旨いからに違いない。

 というわけで活け蛸を一杯買って帰る。お値段千五百円は、一人には過ぎた大きさの活け蛸であるから高いわけではない。

 最近料理屋で出す蛸は判で押したように半生。もちろん不味いのではないけれど、いささか食傷気味だったから、口切りはきしきしと音がするくらいの歯ごたえに茹で上げたやつのぶつ切りを(蛸ぶつ、いうやつでんな)塩と山葵醤油で。まずこれでビールを呑む。

 『タコの才能』という通俗科学ルポを読んだ時、著者おすすめの蛸料理法にびっくりしたおぼえがある。たしか一度冷凍したのを解凍して、とはつまり組織をぐちゃぐちゃにつぶして、さらにそれを叩きまでして柔らかく作っていたのだった。とろけるようなたこ刺しねえ。魚食民族としてはぞっとしない。

 続いて冷ましてからそぎ切りにした蛸で蛸酢。胡瓜とわかめとトマトを添える。これは蕎麦焼酎オンザロックス。

 最後は、足二本分でサラダ風。これはやっぱり半生のほうが旨いので、足二本分だけ先に引き上げておく。波打つように削いで、ドレッシング(オリーヴオイル、塩・胡椒、ライム果汁、ニンニクとバジルと玉ネギのみじん切り)とよくなじませる。スペインの白ワインをがぶがぶ呑む。おそろしいほど蛸をむさぼり食ってるように見えるが、「蛸は腹に入ったとたん水になる」というくらい消化のいいものなのである。

 しかしこれでもまだ半分を余している。明日はトマト煮と揚げ物だな。

 この日は他に茄子の炒め煮と間引き菜のお浸しで食事を終えた。トマト、胡瓜も含めて自家菜園のもの。思えば結構贅沢な夕餉ではあった。

 六月後半に読んだ本。またしても羅列に終わってしまった。せっかく「北窓書屋ブログ」に出会って発奮したのに、情けないていたらくと言うほか無し。

島薗進ほか編『神・儒・仏の時代』(シリーズ日本人と宗教、春秋社)
古井由吉『言葉の呪術』(全エッセイ2、作品社
大江健三郎古井由吉『文学の淵を渡る』(新潮社)
◎陸文夫『美食家』(陳舜臣監修、陳謙臣訳、松籟社
◎辛永清『安閑園の食卓 私の台南物語』(文藝春秋
◎ロベール・ドロール『中世ヨーロッパ生活誌』(桐村泰次訳、論創社
◎G.フーケー・Gツァイリンガー『災害と復興の中世史 ヨーロッパの人びとは惨禍をいかに生き延びたか』(小沼明生訳、八坂書房)
宮下志朗ほか編『学問と信仰と フランス・ルネサンス文学集』(白水社
◎カール・ローゼンクランツ『日本国と日本人』(寄川条路訳、法政大学出版局
◎山本聡美『九相図を読む 朽ちてゆく死体の美術史』(角川選書
◎松岡心平『中世芸能講義』(講談社学術文庫

 どれも面白く読んだんだけど。七月はもう少し気合い入れて紹介します!
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