月見ごはん!

 仲秋の名月当日はだらだら本を読みながら月も見ずに過ごしてしまった。こちらの事情を考慮してくれたかのように、次の日が「スーパームーン」(も少し雅な呼び方はないものか)というので、月見の料を仕入れて帰る。

○甘鯛の一夜干し
○燻し鰹と胡瓜の辛子味噌和え……本式(?)には生節を使うところ。燻し鰹のほうが旨いのだが、生節の呆けたような味わいも捨てがたい。蕗と焼き豆腐と一緒に炊いたのなど、そう言えば随分長いこと作ってない。あれは少し味醂をきかせると弁当のおかずとしてもなかなかよいもので・・・と古老になった気分で回顧する。
○海老とオクラと茗荷の胡麻酢和え……海老は残念ながら解凍品なので、レモン汁を垂らした塩水に浸けた後、油通しして用いる。オクラは板ずりのあと湯がいて小口切り。茗荷は細打ち。
○新里芋の大徳寺納豆和え……レバームースを少し混ぜます。
○ぬか漬け(茄子・胡瓜)……涼しくなってだいぶぬか床も落ち着いてきた。朝漬けて晩酌時に出すと丁度いい漬かり加減。

 和え物ばっかり。上野直哉『四季を和える 割烹の和えものの展開』を読んで和え物づいている。いつか肴には吸い物(か懐石でいう煮物―関東ならば椀盛―)がいちばんと書いたことがある。あったかくて、薄味で、水気が多い、その上具材(の組合せ)は無限と思えるくらいに多様なわけだし。

 ところが、これも書いたことだが、家でするには面倒なのですね。出汁を引いて具の下ごしらえして、熱々のタイミングで卓上に運んで呑み始める(むろん酒を、である)のは。

 それに、お椀という料理は、いってみれば音楽でのソナタ形式みたいなもので、完成されきっているものである。用いる昆布・鰹節・醤油、それに言うまでもなく出汁のひき方も含めて、「これが正調吸い物」という、絶対基準があるわけです(味なんて好みごのみじゃないか、などという寝言はここでは取り上げません)。

 だったら具材、具材の取り合わせ、具材の調理法(生のまま・漬ける・茹でる・蒸す・焼く・揚げる)、それに和え衣(これだって組合せることが出来る)で、いくらでも工夫が出来、しかも吸い物ほど肩が凝るわけでもない和え物というのが、素人が家で作って呑む時の最上の肴となるのではないか、と考えたのである。

 上野さんの本では、さすがにプロ中のプロ。こちらが思いもしなかった具材や、和え衣がいくつも紹介されている。そういえば、一度お店に行った時、ずいきとたしか空豆の白和えに感心したおぼえがある(魚の印象はあまり残っていないけれど)。

 実地で本職の技を見せてもらおうかな・・・とけろりと考えを翻しながら、福島の『名倉山』なる銘柄(純米吟醸ひやおろし)を呑む。呑んだことのない蔵・銘柄ばかりを追いかけるのはなんとなく浅間しい感じで嫌なのですが、酒屋の「たまにはこういう系統のも呑んでみたら」という薦めにのってみた。なるほど、こちらが好むのとは対照的に、華やかで口当たりの軽快な酒。今晩の肴はどれも重量級というこしらえではないから、こういう方がよく合うのかもしれない。

 そうそう月見の顛末。調子に乗ってどんどん呑んでるうちにこの日の趣旨を忘れて、すっかりいい気分。風呂に浸かりながらアリス・ウォーターズの料理本を眺めてる最中に月のことを思いだした。

 汗を流し、丁寧に淹れた(*)コーヒー片手にベランダへ出ると、おおそれ見よ、玉鏡は中天高く冴え冴えとした光をふり散らしていたのであった。中天高いだけに、「スーパー」という程大きく見えたかったのだけれど。


*半分は濃く淹れて、雑味が出てくる後半は用いずお湯を差す。北海道は恵庭にある『珈琲きゃろっと』さんのHPで教わった。この日の豆はブラジル・ダテーラ農園のスイートイエロー。なめらかな甘さの逸品でした。


四季を和える―割烹の和えものの展開

四季を和える―割烹の和えものの展開

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