一月度決算。

 年末年始の連勤に続き、旅行もはさまったものの、結構読めた。やっぱり活字に飢えてたのかな。

○松尾光『思い込みの日本史に挑む』(笠間書院)・・・ゴキゲンな本。「口碑などいかがわしい史料からあやうげな推測をすることが歴史学にとっては危険なのである」と宣いながら、ご自身の専門以外のところでは駄労解が炸裂しているあたりがゴキゲンなのである。読んでいて何度か吹き出してしまった。すみません。
○ダニエル.E.リーバーマン『人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病上下』(塩原通緒訳、早川書房
橋本治義太夫を聴こう』(河出書房新社)・・・先行の『文楽を読もう』と対になる一冊。人形浄瑠璃はやはり義太夫。昨年は文楽の入場者数も過去最高水準だったらしいし、もっと義太夫の音源を入手しやすくしてほしい。巻末には驚くなかれ(いや、橋本治だから驚くには当たらないか)、源氏物語を題材に、著者が道行の詞章を創作している。うーん、しかし『源氏』の中では玉鬘説話は比較的世話にくだけているとはいえ、やっぱり江戸文学ならではの淫猥卑陋(貶しているにあらず)な趣に乏しいように思う。
○山本英貴『旗本・御家人の就職事情』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー)
西谷修『夜の鼓動にふれる 戦争論講義』(ちくま学芸文庫
○大出敦『クリティカル・リーディング入門  人文系のための読書レッスン』(慶應義塾大学出版会)・・・「人文学入門」と名乗る本はソモソモ論か、逆に文献探索のスキルに特化したものが多い。これはまさしく「読む」という中核の営みを、しかも実例豊富に説いてくれている。新米大学教師など、役に立つことが多いと思う。ま、その分読みそのものはオーソドックスなので、新米でも大学教師でもない人間は刺戟されなかったけど。
○金澤マリコ『ベンヤミン院長の古文書』(原書房)・・・アレクサンドリア図書館の書物がひそかに救出されて伝えられていたら?という、本好きには堪んない設定の伝奇ミステリ。なのですが。島田荘司賞を受けたらしい。しかしオビでその島田荘司が書いている推薦文は要するに、「これは小説としてまだまだ魅力が足りない」ということの婉曲的な表明ではないのか?物語固有の時間が流れていないように感じた。次作待ち。
○リヴィア・デイヴィス『サミュエル・ジョンソンが怒っている』(岸本佐知子訳、作品社)・・・短篇集、というより短編になるべきエッセンスを集めた文集という感じ(長さの問題ではない)。これは未完成なのではなくて、独特の眼やことばの生まれ方をひと粒ずつ味わうべき本。どうしても表題作は引用しておきたいなあ。自分で読みたい人は次の行飛ばして下さい。これで全部です。片隅ブログなので、宣伝文句と思ってデイヴィスさん、それに訳者の岸本さん(大ファン)、お許し下され。それでは。



 サミュエル・ジョンソンが怒っている―


  蘇格蘭(スコットランド)には樹というものがまるでない。



○岩崎育夫『世界史の図式』(講談社選書メチエ
河野哲也『境界の現象学 始原の海から流体の存在論へ』(筑摩選書)
田川建三『イエスという男 逆説的反抗者の生と死』(三一書房
エドワード・フレンケル『数学の大統一に挑む』(青木薫訳、文藝春秋
上野修三・難波割烹㐂川の会『八十八種魚を使いつくす』(柴田書店)・・・「浪花の食い味」(「京の持ち味」と対になる表現らしい)らしい丁寧で創意ふれる仕事で、見ていてため息が出そうになる本。上野さんの造語(当て字)癖はあまり趣味がいいとはいえないけど。
レオ・ペルッツ『聖ペテロの雪』(垂野創一郎訳、国書刊行会)・・・結局ペルッツの新刊が出るたびに読んでいるのですが。これは個人的にはいちばん劣る。要するにワン・アイデア・ストーリーなので核心は書けないけど、ハリウッド映画でさんざん使われたテなので、すぐに底が見えてしまうのだ。じめーっとまとわりつくような陰鬱なドイツの冬の雰囲気だけを愉しんだという感じ。
氏家幹人『江戸時代の罪と罰』(草思社)・・・珍奇な実話がいくつもいくつも紹介されており、それはそれでもちろん猟奇的関心をそそるのだが、「何を以て罪となすか、何を以て罰となすか」ということば以前の感覚に測鉛を落としているところがいちばんの読みどころ。江戸時代はある点、今よりもこの感覚において成熟していたように思う(現代は内田樹氏いわく、「呪いの時代」)。でも、小伝馬町の牢内自治のイヤラシサたるや、これはもう、「あの」日本らしさむんむんで、ちょっとやり切れない気になる。
○J.M.クッツェー『世界文学論集』(田尻芳樹訳、みすず書房)・・・題名と出版社を見てカッチカチの理論書かと思っていたが、正反対。まさしく現役の小説家ならでは、という批評らしい批評である。図書館で借りてでもいいから読んでね!《告白》というトピックでルソー、トルストイドストエフスキーをつなぐのは、まあ誰にも出来るが、ルソーがなぜ貨幣を憎悪したかの分析なんて絶対に学者にはもてない切り込みよう。カフカの『巣穴』の執拗極まる時制分析も作家らしいなあ。「両生類の王」(byルター)エラスムスから話を始めて知識人の「立ち位置」について、諦念に満ちた、しかも成熟した認識を示す。バルガス=リョサの揚々たる発言を引き、作家=英雄という(ある意味いい気な)見方に加える論評もいい。当方贔屓のブロツキーのエッセイ集をこれまた丁寧に、というか執拗に鑑賞してるところもいい。ごめん、クッツェーさん、こんど小説のほうも読みますね。

世界文学論集

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