四日の桃

 十日の菊なら三島由紀夫の作品名にもなってるし、六日のあやめでもまだ様になるけど、桃だとなんだか熟れすぎも越えて饐えた匂いを漂わせつつ、汁がじゅくじゅくと垂れてきそうな感じ。でも、まあ、それに近い状態。一日遅れの雛料理となったのは、前日までめずらしくインフルエンザで寝込んでいたから。おまけに高熱でうんうんいってる最中に今シーズンの花粉症が始まってしまったとおぼしく、咳は出るやらくしゃみは出るやらでまったくもって難儀した。

 病み上がりだから雛料理とは言っても花やかにあれこれという訳でもなく、ただ青菜を体が欲してる按配なので、ちらし鮨は生臭を入れず、高野豆腐・椎茸の甘煮、独活、菜の花、三つ葉、莢豌豆の精進。冷ましてから半分は揚げに詰め、残りは一口大の茶巾にして蒸し鮨とした。今書いてみて始めて気付いたのだが、なぜわざわざ冷やして蒸し直す必要があったんだろう。これも熱のせいか。

 あとは蛤汁に韮と若布のぬた。酒も呑まず、番茶をすすって夕飯をゆっくり食べる。晩酌する時は本を読むが、この日の対手はBSで録画していた『イタリア小さな村の物語』。見ていると涙がにじんでくる。我がイタリア熱いっかな冷めず。

 翌日、体調も戻っているようなので、近江は五個荘にある観峯館なる美術館に足を伸ばすことにする。生誕百八十年ということで富岡鉄斎の特別展示があるのだ。館のホームページを見るとかなり辺鄙なところにあるようだが、鉄斎好きとしては逃す訳にいかない。

 と考えていたのだが、いやその道中の長いこと。能登川という駅で降りて変哲も無い田舎の道を一時間以上。気温が高めの日ではあったが、春とも思えないほど汗をかいてようやく到着。

 ま、しかしこれだけ辺鄙な場所だと客も少ないもので、会場ははじめ近所の百姓らしい爺さん二人連れが飴をぼりぼり噛みながら大声で話しながら見物していたものの(一人なぞは携帯で大声でしゃべり出す始末)、柳田格之進か神崎与五郎の如く歯を食いしばって辛抱しているうちに退散して(もっともあと五分出て行くのが遅ければ白昼の凶行に及んでいたであろう)、あとは結局会場を出るまでずっと当方ひとりという贅沢な見物をすることが出来た。

 同じ滋賀の布施美術館の所蔵を中心に、地元五個荘のコレクターの品なども取り混ぜて並べていた。こちらが大好きな蘇東坡モノをはじめ、面白いものもあったが、ともかく今年は兵庫県立美術館での大回顧展がある。鉄斎についてはそちらを見てからまとめて感想を述べることとしたい。

 夕景は同僚・同僚の彼女・同僚の高校の同級生というメンバーにて、天満で食事。ダンナの仕事の関係でずっと中国に住んでるという同級生の話がおもしろく、久々の酒ながらこちらのピッチもどんどん上がってくる。また無闇に強いんだな、この同級生氏が。

 夜更けに帰宅して就寝。熱が引き切ってなかったと見えて、奇っ怪な夢を続けて見た。
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