酢を吸う三人

 三月生まれの三人が集まってささやかな誕生会をした。うち一人は呑み屋をやっているので、そこに各々料理酒を持ち込んで気張らずに呑もうという集まり。年齢も職業もばらばらながら、なんとなく呑み友だちというだけで、なんとなく集まって、騒ぐでもなく愚痴に落ちるのでもなく呑んで食ってしゃべるだけで充実した時間が経っていく。呑み屋の友だちはサラダやすじこんを用意(酒を飲みに行っても必ずひと品ふた品出てくる店なのだ)、もう一人の友人(自称「そごうマイスター」)はお総菜をいろいろ、ブログ子は寿司折(穴子箱寿司が旨い店)に酒一升(「龍勢」という初めて呑む銘柄。なかなかぱんちが効いてた)と、これは自家製の沢庵を持参。毎年「みんな中年やし、こんなに食べられへんよなあ」と言いつつ結局綺麗に平らげているのが我ながら可笑しい。

 もう四十二なんだよなあ、という感慨はなし。従って抱負も反省もなく、ただ来年も三人寄って呑みましょうや、と誓うばかり。肩肘張らずとも言えるし、くすんでいるとも言える。ま、あれだけ呑んで翌朝もはよから洗濯機回してるんだから、肝臓がくすんでないのは確からしいけど(こういう生活が色気に乏しいかどうかの判定は措くとして)。

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 最近読んだ本。

○森浩一『回想の食卓』(大巧社)…最後まで読んでも、前に一度読んだことがあるのかどうか、はっきりと思い出せない。まあ、面白く読めたのだから、読んだにしても内容は忘れてるんだろうけれど。四十二歳かくの如し。それにしても森先生のからっとした文章、いいなあ。
野坂昭如『マスコミ漂流記』(幻戯書房)『文壇』や『新宿海溝』と同断ながら、完全に同時代なので筆者の自虐というかひりつき具合が一層きつい。
○フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者 サルトルニーチェ、バルト』(橘明美訳、太田出版)…お三方ともショパンを酷愛していたそうな。
○チャーリー・ラヴェット『古書奇譚』(最所篤子訳、集英社文庫
安岡章太郎『小説家の小説論』(福武文庫)
高橋睦郎『詩から無限に遠く』(思潮社
上野修三『なにわ料理一代』(創元社
ブレヒト暦物語』(丘沢静也訳、光文社古典新訳文庫)…ご本家ヘーベル暦物語、つまり岩波文庫『ドイツ炉辺ばなし集』のひなびた味わいとは対照的。ブレヒトだもんな。異端の廉で火刑に処せられる直前のジョルダーノ・ブルーノに、執拗に仕立て代を請求に行くオバハンの話が面白い。映画にしても映えそうだ。
出久根達郎『幕末明治異能の日本人』(草思社)…二宮尊徳幸田露伴・天田愚庵の三人を取り上げている。露伴だけもっとたっぷり語ってほしかった。
南條竹則『中華満喫』(新潮社)…硬質の文章がいい。本場の中華食いたい!
○『近松半二浄瑠璃集 上』(叢書江戸文庫、国書刊行会)…四月に文楽劇場で『妹背山』の通しが上演されるので、ふと半二の浄瑠璃であまりメジャーでないものも読んでみましょ、と思って読み始めたのだが、いやーすげー迫力だな。すでに内山美樹子先生が指摘なさっているようだが、父子相剋の主題など、日本古典文学にはちと見られないものである。ただ半二の込み入った作劇術だと、続けて読まなければすぐにあらすじやら人物関係やらがこんぐらかって仕方ない。サラリーマンには負担を強いる作者ではある。
○ニコラス・フィリップソン『デイヴィッド・ヒューム 哲学から歴史へ』(永井大輔訳、白水社)…かなり評判になった(と思う)アダム・スミス伝の筆者の手になるヒュームの伝記。元は「歴史家が好きな歴史家について一冊書く」というシリーズに入ってただけあって、惚れ込み具合が露わで面白い。ただし翻訳の日本語は少なからず引っかかる。もう少し洗練させられなかったものか。キリスト教の教義を徹底的に破壊すべく、感覚経験に人間の本質を求めたヒュームが、では超越的な規範のないところで世界が存続しているという事実をどう説明するか。現にある制度に従うという本能が備わっているのだ、とヒュームは考え、従って地域及び時代によって異なる制度に対する関心がやがて歴史家ヒュームを誕生させていく。ナルホド。しかし、ではそのヒュームが現に生きていた十八世紀英国の「洗練」の空気をどう自らのものにしていたか、そこをも少し丁寧に説明して欲しかった。人間的な魅力を伝えると言う意味では、吉田健一『ヨオロツパの人間』や、吉田の師匠であるF.L.ルーカスの一連の十八世紀論(The Search for Good Senseや、The Art of Living)の方が読みでがあるかな。文学者と歴史家の違いというところか。それにしてもヤヤコシイ名前だ。ずっとフィリップ・ニコルソンと憶え違いしていた。


デイヴィッド・ヒューム:哲学から歴史へ

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ヒューム 道徳・政治・文学論集 [完訳版]

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