KG制覇計畫・其ノ壱

 酒の勢いでつい要らぬ約束をしてしまうという話、ありますね。某某飲み屋のネエちゃんにごはん奢る約束、いつしたんかなあ、なんて。鯨馬もちょっと慌てることが時折あります。裏を返せば、ほっとくとなかなか進まない話も弾みがつく、とも言える訳で、今回の京都・滋賀買い出しツアーも、元を手繰れば、いつも通り『いたぎ家』のカウンターでアニーと「久々にウチ呑みしたいねえ」なんぞと話したところから駒が出て実現することになったのでした。

 久々だから何か趣向を作りたい。それについては、常連客がよく行くという滋賀のかしわ屋の肉がすこぶる上等らしいので、そこの鳥肉で鍋、滋賀まで伸すついでに朝市でその他の具材も仕入れましょう、ととんとん拍子に計画が決まる。

 目当ての京は大原の朝市は、朝市なんですから六時に開いて、早くも八時を過ぎるとめぼしい所は売り切れてしまうそうな。逆算するに神戸を五時には出発しなくてはならない。となれば四時には起きる必要がある。当方なぞは前日仕事とはいえ、家に帰ってうどん食って屁をこいてころりと寝転がってしまえばいいのだが、むろんアニー、タクー兄弟は通常通り店を営業し終えて片付けてからのこの時間ですから、まあ、ほとんどまともには寝ていないことになる。遊びもこうなれば風流の域に入ってくるというもの。

 さすがにまだ真っ暗な中を出発。名神高速を京都南で降りて、鳥羽、四条、百万遍と北上して八瀬に入る頃には車中でも底からじわじわと冷気が這い上ってくる。道路脇の朝市に着くと吐く息が白く、焚き火の温みが有り難いほどの寒さだった。

 九条葱や白菜以外にも、たんぽぽや雪の下、土筆などの野草が並べられているのがいかにも京の市らしい。ここでは葱と野蒜、甘草、蕪の糠漬を購入。当方は自家用として「岡海苔」なる菜とクレソンを買った。「岡海苔」とは軽く炙ると不思議や、海苔の香りが立ってくるというケッタイな蔬菜(山菜?)。冷酒のアテかな、これは。

 次に向かったのが滋賀の酒をたくさん扱っている酒屋、というところがチーム『いたぎ家』(アニー、アニヨメー、タクー、客=鯨馬)の面目である。店の酒の仕入れ先(のひとつ)だそうな。気さくな店主が奥から次々と出してくれるのを試飲して、あーだこーだといいながら酒を選んでいく。全員の好みが分かっているので、細かいところまで味のタイプを絞り込んでいけるのである。

 アニーのチョイスは『松の司』限定生原酒「心酔」、『大治郎』純米大吟醸本生原酒無濾過袋吊り(仏説摩訶般若波羅蜜多心経)、『北島』特別純米生酒(平成二十二年度醸造の熟成酒)等々。

 『松の司』の熟成酒がすばらしく旨かったので、ここでも自家用に『松の司』純米大吟醸と『大治郎』呼び酒(みず)を購入。あとめっけもんは「黒酒」。記紀の時代から造られている酒やったんちゃうかしら。名前通りの色で、色のとおりに種々のアミノ酸が豊富。だから料理の底味や食材の下ごしらえにも重宝する。酒屋で見かけることも少なかったので、「これ一升瓶でないですか」と伺ってみると(一合瓶しか並んでいない)、「仕入れても全然売れないから一升瓶は止めました、そこにある分は差し上げますよ」とのこと。『いたぎ家』で呑んでるぶんが回り回ってこちらに戻ってきたというところか。有り難い有り難い。

 大桝屋の側には某ワイナリーが営んでいるパン屋があったのでついでに寄ってみた。鯨馬はここでもパン二つを買う。

 10時を過ぎると、だいぶ日射しが出て温かくなってきた。途中見かけた道の駅で野菜を物色。青々した三つ葉の大束が百円。これで鳥すきは乙なもんですぜ。と大量に買い込む。あとは白菜一株とここら辺(永源寺)で有名なこんにゃく、舞茸、マッシュルーム、苺。

 えーと、わたくし個人用としては赤蕪漬と日野菜漬と鮒鮨を購入。完全に躁状態に入ってますな。

 そろそろ早起きが祟ってきたのか、堅田にある『かしわの川中』で肝腎の鳥肉を買うのに、10分もかけず(酒屋では小一時間滞在していた)。まあ、これははじめからそれを目がけて来た訳だから選択する必要も無かった、と言える。

 買い物はここにて打ち止め。時分どきではあったが、どこも店は一杯なのでコンビニで買ったおむすびを車中でぱくつきながら帰神する。アニー夫妻は後部座席で撃沈。ハンドルを握るタクーと助手席の鯨馬は延々と三宮の食べ物屋事情や食材の使い方について喋り続ける。何の身の足しにもならぬ会話ながら、ともかく沈黙すればすぐに睡魔が襲いかかる。文字通り「寝たら死ぬぞ」の状況なのである。テレビでしょーもないことを延々喋り続ける芸人になったキモチ。

 神戸駅に全員無事生還。富士奴さん(同じく『いたぎ家』の常連)を拾って、スーパーでビールを買って拙宅へ。残り一組のお客様である、神戸の須磨は妙法寺、多井畑厄神の御門前、パン好きにその名も高き『味取』ご夫妻は店を仕舞ってからなので、宴までにはまだ二時間以上ある。最近落語の魅力に開眼したヨメーと富士奴さんはDVDで枝雀の「鷺とり」を観賞。タクーは仮眠。こちらものーんびりと仕込み。ウチでお客をするときは、おおかた直前まで大童の大車輪の千手観音顔負けの騒動だから、睡眠不足の身にはたいへん助かった。

 この日の献立は以下の如し。

【主菜】
○かしわすき焼(かしわ、三つ葉、白菜、九条葱、舞茸、こんにゃく、豆腐)
○かしわ鉄板焼き(かしわ、九条葱、舞茸、マッシュルーム、こんにゃく)

【酒肴】
○野蒜(梅肉と鰹だしとマヨネーズと卵黄と黒胡麻の和え衣で)
○甘草(赤味噌、酢、辛子、玉子の和え衣で)
○鮒煮付け(道の駅で購入。子持ち。鯉よりも身が締まっている。)
○鮒鮓
○蕪糠漬

 かしわは近江しゃも(雄一パック、雌一パック)と淡海地鶏の二種類。健康的に育てた地鶏のさばきたてで、旨くないはずがない。これは水炊きよりも出汁の鍋よりもすき焼き、それも砂糖と醤油で炒りつける関西風のやつが一等合うような気がする(水炊きをしたらやっぱりこれが一番と思う気もするが)。しゃきしゃきの三つ葉もすばらしい。かしわの脂(黄色いのね)を吸ったマッシュルームも絶妙。甘辛味と脂でくたびれた舌に鮒鮨と漬物が清爽な気合いを入れてくれたおかげで、七人誰もダウンせず。ビールなんぞはそこそこに切り上げて、京滋の食材・近江の酒を芯まで堪能はいともめでたし。めでたしともめでたし。なんというか、生きていて良かった、という時間を過ごせた。

 はやく其ノ弐をしませうね、アニイ。
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