樽のある日々

 モノにはほとんどこだわらない性分で、腕時計は何十年と付けてないし、茶碗も縁が欠けたのを平気で使う。そんな人間がまた何だって酒樽をふたつも家に運び込んだのか。


 出所は『播州地酒ひの』さんである。ひのさんに「要る?」ときかれて、「要ります」と即答したのは、したたかここの樽酒(剣菱であります)をあおった身として、何だか樽が我が血縁のように感じられたせいか。何にどのように「要る」んだか、自分でも皆目見見当がつかないまま、とりあえずふた樽はこちらの所有に帰すこととなった。ま、書庫を除けば、独り身でしかも初めに記したような性分だから、なんとかなるべい。


 なんとかならんのは運搬方法であって、小さいほうはまだしもふらふらしながら抱えてウチに戻れたけど(当然中身は空だから軽いのだが、いちびって肩にかついでトアロード辺りを歩いていくと、目を丸くする酔客が多くて愉快だった)、大きいのはこれは車でないとどうしようもない。


 当然のごとく運転手の空男氏を呼び出すことになる。目的は樽はこびとしても、最近は滅多に車を出してもらう機会もないものだから、ついでに多井畑厄神前『天然酵母 味取』さんところに寄ってパンを買い、ついでに、といってはバチが当たりそうだが厄神さんにもお詣り。本殿の上の方にある、この神社の起源であるらしい疫神塚というのがいかにも禍々しい雰囲気を湛えていてよござんした。うーんこれも罰当たりな表現か。


 結局三宮に戻ると時分どき。結局『施家菜』でランチまで食べて(一品も頼めるみたい。次はそれでゆっくり食べることにする)、『ひの』さんところに着いたのは二時近くにもなっていた。


 重さは、まあ一人で担げるくらいにしても……うーむ。デカイ。この親ではない、この店主にしてこの子、ではない、この樽あり、という感がする。


 スウィフトの後部座席に乗せると、まるで御神輿をのっけたようで、バックミラーがふさがれるのは当然、それ以上になんだか得体の知れぬ威圧感が後ろからひたひたと我々を圧しつけてくる。御神酒とはよく言ったもので、神に差し上げる以上に、酒自体がご神体であってもおかしくない、という気がする。


 で、とりあえずバルコニーに二つ並べて鎮座いただき(大きい方は「大明神」、小さい方は「子明神」と、これは即座に名が付いた)、三日がところは使い途の思案に暮れる。『いたぎ家』アニーは、黒松剣菱の一升瓶を買って注ぎ込み、もう一度樽酒を楽しんだらどう?とアイデアを出してくれた。


 自宅で杉の香のふわっとする樽酒をきゅいきゅい呑めたらさぞかし気分いいだろうなあ。しかし、どこから注げばいいのやら。がっちりフタが締め込まれていて、とてもこじ開けられそうにない。実はこれを鉢代わりにメダカやヌマエビを飼えば素敵だなあと、いたって無計画に妄想していたのだった。そういえばひのさんは「どうやってフタ開ける?」と言ってはったような……素人とは思えないくらい色んな種類の工具を持っている「解体ヘンタイ」(と名付けた)空男氏も「これは…どう手をつけたものやら」と困惑してたしなあ。


 いずれひのさんとアニーとタクーに、一斉に飛び乗って頂いてフタを壊すつもりではあるが(それで壊れぬフタであれば、NASAに売り込みに行くぞ、わしゃ)、当面はこのなりで使ってゆかねばならぬ。ま、無理して使わなくてもさすがは「神」だけあって、眺めてるだけで愉快なのですが。


 昨日の夜、うとうとしながらひらめいた。大明神を卓に子明神を腰掛けにして、バルコニーで朝飯というのはどうか。


 さっそく試してみました。爽やかな朝の風に吹かれて、バルコニーでブレックファースト☆というのに、納豆・しじみ汁・鰺の干物というのもなんだから、せっかく『味取』さんのパンもあることだし、ふだんはしない洋風の朝食(弁当は和食なので、わざわざ朝だけパン、というのは休み以外は滅多にしないのである)。蛸とピーマン入りのオムレツと苺・キウィ(粉砂糖少々とシェリーをふりかける。向こう側に植わってるミントもちぎって和える)、ミルクティという献立でした。しじみ汁以前に、剣菱の樽に腰掛けての食事とゆーのがそもそもお洒落で爽やか、ではないかもしれんのだが。


 と思いつつも、高さは丁度良し。風も吹き通って気持ちいいし、夏はこの上で冷やそうめん(とビール)、秋は卓上コンロで干物を焼いて(と冷酒)、冬は湯豆腐(と熱燗)、とここまで来たら気違い沙汰であるが、まあともかく気に入りました。大明神さま子明神さま、これからも我が家の食卓を守らせ給へ。

↓↓↓大明神と子明神


↓↓↓ハイカラ(?)な朝食風景

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