プロとアマ

  日曜日は『播州地酒ひの』さんで奥播磨の会、水曜日は『海月食堂』で敬士郎さんの料理を堪能する会と、出不精には珍しく立て続け。

 蔵の方からは「大吟醸でも、一通り食べた後でなおかつ美味しく呑んで頂けるように作っています」と説明があった。逆に言えば酒のほうでも料理を選ぶことになるわけで、淡い味付けばかりだとかえって酒を重苦しく感じてしまうことになるはずである。日野親分の料理はさすがに勘所を抑えたもので、「あれ、いつものとなんかちやう……」と思うと、それらはみないわば奥播磨シフトなのであった。造りの出し方から、粕漬(あっ、と言わせる選択)まで、間然する所がない組み立てでした。

 『海月』はバイキング方式。少しくせわしないところはあったが、ほとんどはひとりで中華の店に行く(中華だけではないけど)人間にはこれだけの品数があることがまず嬉しい。アコウの清蒸の加減も良かったし、モツの山椒炒めも怪訝なくらいすっきりした仕上がり。なかんづく家鴨の舌の燻製の嬌艶たる食感・・・じゅるる。何品かは定番メニューに入ることを切に希望する。

 二日とも、プロの料理人の凄さに舌を巻く思いでありました。当分は人様をお招きして振る舞うなんて出来ないね、やっぱり。日野親分が、色んな人に引き合わせる毎に「素人の身で、料理人を家に呼んで料理出したヒトです」と古傷に塩豆板醤酢に赤チンを塗り込むような紹介をして下さるものだから、中々立ち直れないのですね、こちらとしては(時々夜中に思い出して「ワーッ」と叫び出したくなるのだ)。

 と袖をしぼりつつ、焼き穴子と三つ葉の山葵和えで冷酒をあおる。

 本のことも書いとかなきゃ。ずいぶん間があいてたまってますから、また間に何やらかんやらあったのでいつも以上に雑駁な紹介になると思います。ともあれ

○サイモン・シャーマ『フランス革命の主役たち 臣民から市民へ 上中下』(栩木泰訳、中央公論社
ゴーゴリ『鼻/外套/査察官』(浦雅春訳、光文社古典新訳文庫)・・・原作の語り口を生かすために落語口調を採用した、と訳者あとがきにある(初めての試みではないらしい、へえー)。達者なものですが、しかしグロテスクなユーモアを醸し出すなら、一見素っ気ない無表情な訳文のほうがよりふさわしいのではないか。名人の噺家がにこりともせず荒唐無稽な話を語ってみせるように。
○田中徹『花の果て、草木の果て 命をつなぐ植物たち』(淡交社
○吉井亜彦『演奏と時代 指揮者篇』(春秋社)
アダム・カバット『江戸化け物の研究 草双紙に描かれた創作化物の誕生と展開』(岩波書店)・・・美術史乃至民俗学的手法に極力よらない、と宣言したいわば文学的化け物研究。
○神田千里『宣教師と『太平記』』(シリーズ「本と日本史」、集英社新書)・・・知識としては知っていたが、『太平記』の地位、こんんなに高かったんだなあ。
○『定本 柄谷行人文学論集』(岩波書店)・・・著者が修士論文で「アレクサンドリア四重奏」を扱ったと聞いて(へえー)読んでみた。
○栗原康『死してなお踊れ 一遍上人伝』(河出書房新社)・・・ビートの効いた文章というのか(古いか)。後半やや叙述が単調になるが、一遍の日本廻国と無限的念仏&踊りの陶酔を忠実に伝えればこういうことになるのかもしれない。
池澤夏樹『小説の羅針盤』(新潮社)・・・鴎外贔屓はえっと思ってすぐに納得。こういう組合せって面白い。
○フリードリヒ・デュレンマット『ギリシア人男性、ギリシア人女性を求む』(増本浩子訳、白水uブックス)・・・ブラックコメディはスピード感が一等重要なのである。
清水勲編『ビゴー『トバエ』全素描集  諷刺画のなかの明治日本』(岩波書店
○フェルナンド・サバテール『物語作家の技法』(渡辺洋訳、みすず書房)・・・須賀敦子の本に教えられた。一読されたい。
○芳賀京子・芳賀満『古代 ギリシアとローマ、美の曙光』(「西洋美術の歴史1」、中央公論新社
○秋山聰他『北方の覚醒、自意識と自然表現』(「西洋美術の歴史5」、中央公論新社)・・・これでシリーズは読了・・・二十世紀の巻は残っているが、ま、興味ないからよい。
半藤一利『文士の遺言 なつかしき作家たちと昭和史』(講談社
○亀田達也『モラルの起源 実験社会科学からの問い』(岩波新書
竹下節子『ナポレオンと神』(青土社)・・・ライシテ(政教分離)に興味あるので読んだ。どうもこの著者、歌いすぎる傾向があって、ちょっと苦手。でもナポレオンと同時代の教皇ピウス七世の肖像は気に入った。綺麗事でなく、小説的興趣あり。
○藤井光編『文芸翻訳入門  言葉を紡ぎ直す人たち、世界を紡ぎ直す言葉たち』(フィルム・アート社)
高島俊男『本はおもしろければよい』(「お言葉ですが・・・別巻」)・・・シリーズは(単行本の形では)これが最後とのこと。
鹿島茂太陽王ルイ14世 ヴェルサイユの発明者』(KADOKAWA)・・・例の如くドーダ理論と家族社会学で攻め立てる。あんまししんどくならなかったのは、そりゃ、まあ、ねえ、ルイ大王が「ドーダ」かますのはこれ以上ないくらい自然ですから。
○イェルン・ダインダム『ウィーンとヴェルサイユ ヨーロッパにおけるライバル宮廷1550-1780 』(大津留厚他訳、刀水書房)・・・鹿島さんの本でも参照されていたのがアリエスの『宮廷社会』。その古典中の古典的研究を正面から批判してのけた研究書。
青木淳選『建築文学傑作選』(講談社文芸文庫)・・・このところなんだか混迷を極めている文芸文庫の中でヒットの一冊。「建築」文学といっても、筒井康隆「中隊長」が入ってるのである。以て後は知るべし。作品の構造を建築として読み解く編者の解説が面白い。
○小山順子『和歌のアルバム 藤原俊成詠む・編む・変える』(ブックレット「書物をひらく」)・・・平凡社
末木文美士『日本思想史の射程』(「日本歴史 私の最新講義」、敬文舎)
黒田龍之助『その他の外国語エトセトラ』(ちくま文庫
○松木武彦『縄文とケルト 辺境の比較考古学』(ちくま新書
○ウィリアム・マルクス文人伝 孔子からバルトまで』(本田貴久訳、水声社
渡辺京二『日本詩歌思出草』(平凡社)・・・この著者がこの話題で、あの文体でとなれば、好エッセイたることは保証済みみたいなもの。明治の新体詩への(かつての)親炙は「へえー」。とか思ってると、北村透谷の「内部生命」とユング的無意識の近さを指摘するなど、油断ならない本だった。
○グレゴリウス山田『十三世紀のハローワーク 中世実在職業解説本』(一迅社)・・・あれ、村上龍さんが続刊出したんだ、とAMAZONでぽちっ。としたのが一つ目の勘違い。届いたのを見たら、なんだか凡百のファンタジー解説本みたいで「あーあ」と思ったのが勘違いの二つ目。にしては記述がしっかりしてるなあ、と巻末の参考文献をのぞいてぶっ倒れた(大学の紀要まで入っている)。またまた読む本リストが長くなってしまった。
ナサニエル・ウエスト『いなごの日 クール・ミリオン』(柴田元幸訳、新潮文庫)・・・お気に召した方は岩波文庫『孤独な娘』(丸谷才一訳!)もどうぞ!
○ダニエル・C・デネット『心はどこにあるのか』(土屋俊訳、ちくま学芸文庫

 二ヶ月近くにもなるのに、寥々たるもの。衰弱の極みという他なし。

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