皇帝的鮑

 シェアキッチン「ヒトトバ」での“一日だけの料理屋”「蜃景楼」二回目はコース形式。使い慣れない(そして狭い)調理場だから、作る方・食べる方双方にとってこのやりかたがいいようである。

 「舌尖上的変人合作」なるUさん手書きの献立を写し、いささかの注記を付ける。

○老酒汁三海味・・・十年物の老酒に、甘海老・槍烏賊・海月の三種を漬けたもの。香辛料も何も使っていない、とのこと。それでこれだけの味が出るから不思議。
○変人合作前菜・・・意味は分かりますね(鯨馬もこれだけは分かった)。内容は、生鮭を酢と山椒に漬けたもの、シューヨ(香港式焼き豚)、鶏の燻製(骨を綺麗に抜いてある)、中国風ピクルス、皮蛋豆腐(黄身は潰してソースに、白身は刻んで豆腐に載せる。豆腐は万願寺唐辛子を練り込んだもの)、レバーペーストをシュー生地に挟んだもの
○仁修一碗天香・・・要は湯(スープ)なのだが、これが凄いことになっている。皆様ご存じのシャンタン(上湯、上等の素材で引いたスープ)、あれをベースにして引いた湯がある。日本酒でいうところの貴醸酒の如し。これをティンタン(頂湯)という。この日供されたのは、更にそのティンタンをベースにして引いたもので、なんでもチントンシャンとかいって、おそろしく手のかかるものであるらしい。この上にはもうトテチントテチンというのとチリトテチンというクラスしか無いと聞いた。鼈と金華ハムと棗が入っていたのは憶えている。蒸して引いたものだから清澄きわまる。そのくせに、全身の細胞に染みわたって賦活するのが感じられるくらい深い味。酒(ワイン)は一時よして、香りと味わいとの交響に耳をすませることになる。
○燻魚牛蒡春捲・・・これも分かりやすい。鯖の燻製(玄米茶で燻す)と水菜を巻いたものを、牛蒡のペーストに付けて食べる。牛蒡は生姜と炒めて、スープで煮込んでからすりつぶす。「こんな手間のかかるもの、普段は中々出せません」と敬士郎さんが苦笑していた。
○蠔皇乾隆干鮑・・・干し鮑の煮込み。一切れを噛みしめると、いつまでもいつまでも旨味が湧いてくる。これはワインより老酒でやりたかったな。料理名になぜ清朝最盛期の皇帝の名があるのか。満州族と漢族との融和を図って両方の料理を一緒に出した(これが所謂満漢全席)。その趣向を取って山と海の珍味を取り合わせた料理に「乾隆」の名を冠するようになった、とUさんが説明してくれた(鮑の他、小芋と鶏手羽に糯を詰めたものが入っている)。料理に皇帝の名が付くところがいかにもあの国らしくて愉快である。本朝でも、天武鍋とか白河和えとか後醍醐焼きとかいった料理があったら面白いのに。
○甜醤香煎鴨甫・・・鴨ロースの焼き物。バターナッツのペーストを下に敷いて。ソースは甘味噌。添えられたルッコラがいいアクセントになっている。
○大閘蟹粉湯包・・・上海蟹の身をほぐしたのを具にした饅頭を餡かけにしたもの。餡にも上等のスープが使ってある。
○泡辣鯛魚麺線・・・煮込み麺。鯛を何匹も煮込みに煮込んでとった出汁だから、一口啜ると、鯛の香りがもわわわわ~んと広がる。香菜との相性は抜群。
○精彩美味点心・・・デザート。なんだったか記憶にございません。


 中華ばかりは素人では無理。「蜃景楼」に行ってもそう痛感させられたし、また後日南條竹則『飽食終日宴会奇譚』(日本経済新聞出版社)という、これまたスゴい本を読んでいよいよその感を深くしたのだが、一方でこれは和食でも活かせるんじゃないか、と思ったこともある。出汁を蒸して引くのもそうだし、卵を黄身と白身に分けて使うのもそう。造りに山椒を使うというのも、少なくとも当方の発想にはなかった。

 もっともスープを引いた壺はUさんの自作(丹波の窯で焼いてるそうな)。こればかりはどうしようもない。

 

 いい気分のままに、折角だから漢文口調での感想を作った。韻も平仄もなってないけど。


 甲南易牙聚/招牌老饕會/盡珍饌佳肴/上善宛如水

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