いつか来た道

 『いたぎ家』ご一家(お父様・お母様・アニー・アニヨメー・タク)でお客をした。お父様は肉より魚がお好きと聞いて、当日の朝(一時半にお招きしている)東山の市場に行くと、これがまあ、かっすかすのしっけしけ。前々日の強風が祟ったらしい。言ふてもかへらぬことながら・・・と急遽考えていた献立を頭の中で変更しつつ、大慌てで買い物を済ませた。いわゆる定番メニュをおいていない食べ物屋は、こういう場合どうしているのであろうか。まさか店を休むわけにもいかないだろうし。やっぱり玄人はすごいね。


 さて献立は以下の如し。


ばら寿司=蕗・菜の花・独活・新蓮根・新牛蒡・高野豆腐・椎茸・焼き穴子。淋しいかなと思って焼き穴子を載せてはみたが、生臭はむしろない方がひと品の色調がくっきりしたな・・・と後で思った。「なんでもかんでも」はいやしいことである。

○茶碗蒸し=最近やたらと気に入っている蛤出汁仕立て(鮨の『城助』さんとこでおぼえた)。先に酒蒸ししておいて、その汁を卵液に合わせる。貝の塩気だけで充分。だから案外手はかからない。具は蛤のみ。出す時に柚子と木の芽をのせる。

○炊き合わせ=鳥の丸・大根・海老芋・蓬麩・菜の花。コクを補うのに、鳥ミンチの二割くらいレバーを挽いて入れる。血のにおいを抑えるのに山椒をふり込む。味付けは塩・淡口・酒。つなぎは卵黄と片栗粉。もちろん鰹昆布出汁で炊いていく。大根・海老芋は下茹でのあと昆布出汁で炊く。菜の花は湯がいて食べしなに入れる。

○造り=鰰の昆布〆と鯖きずし。鰰は塩を当てて水分を流し、おぼろ昆布で少し〆たあと、柚子をしぼって出す。いつもトロ鯖を置いている魚屋にも、この日は普通のしかなかった。

○和え物
鳥貝・韮・新若布の辛子酢味噌=鳥貝は出す直前に酢洗い。酢味噌は面倒でも湯煎にかけて練り上げておきます。水の出やすい食材が多いので、やや固めに練っておく。
②鮑とこごみの胡麻和え=鮑は酒蒸しのあと角に包丁。煎りたての黒胡麻を擂ったところに、煮切り酒と赤味噌を入れる。
③のれそれと新若布=柚をたっぷりすりかけて、ポン酢醤油。

○油物
①鶏の唐揚げ=紹興酒、醤油、大蒜・生姜で浸けこんだあと片栗粉をまぶしてあげる。竜田揚げになるんかな、こういうの。たらの芽も素揚げして添える。
蛍烏賊パクチー炒め=油はバター、味付けはナンプラーのみ。時間がなくて、蛍烏賊の眼や嘴の掃除が出来ませんでした。ごめんなさい。

○酒肴
①漬け物盛り合わせ=新沢庵・茗荷と胡瓜のぬか漬け・大根の大阪漬。お父様お母様が送って下さった干し大根で漬けた沢庵。その御礼のためのご招待だから、これがメインディッシュとも言える。今年もしょっぱく固くくさ〜く漬け上がりました。個人的な好みというのもあるが、これくらいに仕上げないと、なにせ独りだから食べきるまでに傷んでしまうのである。
②焼き穴子=海苔・山葵・三ツ葉を添えて。

 家族五人+鯨馬でわあわあ呑む ⇒ 皆さんお帰り ⇒ 鯨馬一人で飲む ⇒ 鯨馬寂寥 ⇒ というわけで夜、あらためて『いたぎ家』に出かけて「二次会」。


 さほど量を過ごしたとも思わなかったけど、疲れが溜まっていたのか、翌日は昼すぎまでなんとなく寝たり起きたり。
 この日は夕方から落語会だった。場所は堺。我が故郷である(実家は今はない)。二十年近く過ごした町だが、当然「観光」なぞしたことはない。どこか一つでも・・・と思いつつも、なんとなく億劫で、結局堺東銀座で立ち飲み屋のはしごにとどまった。


 ま、その前に堺東駅からすぐの母校をたずねてはみましたがね。まともな神経をした人間で四十も越したヤツが、まさか青春期を懐かしいものと思うわけもなく(そんな莫迦はいないと思う。万が一いたとして、それは何か勘違いしている筈である)、全面建て替えですっかり趣をかえた校舎は一瞥するにとどめる。意外だったのは、駅や学校付近の坂道や家のたたずまいがなんとなく馴染みのあるものに感じられたことで、この親しみは何なるらん、とコーヒーをすすりつつ考えていくと、時折夢に出てくる光景だったと気付いた。


 ここで時間を遡行して暗澹たる記憶や腥い思い出を延々たぐり出していけば、なにやらそれらしい掌編となりそうだが、それは当方の得手とするところにあらず。すなわち先ほど書いたように、立ち飲み屋を四軒回って「ワン」という道を選んだ。


 いい店も見つけられたし、何より『利久寄席』の温かい雰囲気が心地よく、次こそは(寄席は隔月で興行)堺観光せねばと思い立つ。いや、やっぱりその時間で、「穴子と熱燗一本!」とこうなるかな。
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