草木虫魚

 連休の最終日、絶好の天候なので・・・朝から水槽掃除。水が冷たい時分だと、温度調整にかなり気を遣っても、ショックで☆になる危険がある。今くらいが丁度いいのである。

 せっかく外気温水温に神経質にならなくていいのだから、水を全部掻い出して、砂利も洗って水草も植え替えることにした。これをこれ「天地創造モード」と言う。言ってるのは一人だが。

 朝メシは牛モツのトマト煮込みをかけたパスタと玉葱・炒り卵のサラダとヨーグルト、んで濃いコーヒー。いつもの休日より重め。この仕事に手を付けたら最後、電話が鳴ろうがクロネコヤマトが来ようが昼酒へのお誘いメールが届こうが、ただただ無視するほかない(ヤマトさんごめんなさい)。当然昼食なんぞの余裕は無いから、しっかり食っておくのである。

 大袈裟に聞こえるかな。一度200リットルを越える水槽の水を(一人で)すっかり入れ替えてみたら大袈裟でないことはすぐ痛感(文字通りに)していただけるはず。他の水槽だってもちろんこのタイミングで済ませてしまいたいしね。以下、手順をレシピ風にまとめてみましょう。

水草を抜いて発泡スチロールのケース(以下「スチ」)(1)に浸けておく。この時同種・同サイズのものを揃えておくと、後の作業がやりやすくなります。流木・飾り石の類は別にスチ(2)に取って熱湯につけ、コケの類を根絶やしにする。

②排水する。といってもバケツで汲み出すのではなく(そんなことしてたら中道にして倒れてしまう)、ホースに接続した熱帯魚用の掃除ポンプに水を吸わせてそのままベランダの溝に流します。長く愛用していた先代と違い、最近購入したばかりの新入りポンプがやたらと使いにくく、苛々する。人間精神の進歩なんてちっとも信じる気になれないけど、こーゆーモノはきちんと改良していけっつーの。近頃は料理にしたって小説にしたってゲームにしたってえらく恰好よく見える割りにはちっとも実質がないのと同じである・・・なぞとひとしきり人生幸朗するのも「天地創造」の定番です。たぶん前回の手順をすっかり忘れて段取りよく動けないことに自分で苛立ってるんだと思う。その証拠に、手順を思い出すにつれて“水あそび”が段々愉しくなって上機嫌になってくる。

③水の高さがいい加減になったのを見計らってに魚・エビどもを確保。ウチのコたちは人間にいじめられた経験がないせいか、初めの頃はおっとりしていてまことに捕まえやすいのですが、後半は「なんやエライことになっとるデ」と逃げ惑うようになって手を焼く。「あーこれこれ、おまえたちの天地を気持ちようするためにやっとるねやぞ、ひらひら逃げとる場合か」などと説諭しながら追い回す。ミナミ(=ミナミヌマエビ)はカラダが半透明なので、白っぽい底砂の上では見つけにくいことこの上ない。眼鏡がないともちろん分からないし、かといってネットの中を確認するには老眼が邪魔。横町の隠居乃至大村崑よろしくずり下げた眼鏡の奥からエビを数える。色気ないこと、また骨の折れることおびただしいが、そして実際幾度も「このまま溝に流してやろうかしらん」ともいきり立つのであるが、「この中で代々殖えてくれてはるねやさかいね」とその度に思い直して、ネットを振るわけです。大慈大悲の心を忘れてはなりません。魚エビはスチ(3)に「収容」し、エアレーションをかけておきます。ストレスを和らげるためにウィローモスをひとつかみ投入。砂利を掻き回して水が濁る前に、立ち上げのための種水(バクテリアたっぷり)をスチ(4)に一杯汲み分けておきます。

④底砂の掻い出し。これが一等きつい。20キロほどの砂利をボウルで一杯ずつする他ないのである。水槽の中で洗うとガラスに傷が付きやすいからである。掻い出した砂利はスチ(5)に入れ、ホースを突っ込んでがんがらがんがら掻き回す(あ、スチはすべてベランダに置いてます)。この量だと底まで手が入らないので、半分ずつ洗う。この時、混じっているスネイルも、例の大村崑スタイルで一つずつ摘まみ出していく。「水槽のゴキブリ」とくさされるだけあって、前回徹底的にハネたはずなのに、中原中也の詩の如く出てくるわ出てくるわ。「地球最凶最大の害獣」たる人間の手で「害虫め」と排除される方はたまったもんじゃねえわなあ、などと午後の陽を浴びながら生の哲理に思いをはせるのも一興であります。

⑤空になった水槽を磨く。最近は水槽専門のスポンジもありますが、台所で使うメラミンスポンジがいちばん使いよいように思います。底砂の下、ふだん手が届かない部分の頑固なコケはお好み焼きのコテ(水槽専用です、念の為)ではがしたあと、粗いスポンジでごしごしやって、メラミンで仕上げる。四隅は歯ブラシ(当然水槽専用)を用いる。水が入ってないとコケの色味は見えないので、手で触感を確かめながら洗い上げる。

水草の手入れ。目的は二つある。枯れたりコケが付いたりした葉を剪定することと、殖えすぎた株を分け直すこと。根に絡みついた砂利を優しくほぐすように取り除き、何度も指を通して病葉を挟み取ってゆく手つきは髪を洗う時に同じ。これが愛人の黒髪を梳るのならどれほど愉しいことか・・・などとぼやきつつ淡々と進めていきます。根も切りそろえ、葉の長さや色目ごとにスチのフタにまとめて並べてます。こうしとかないと植え込みがたいへんなことになる。

⑦砂利の掻いもどし。スネイルにも目を光らせて殲滅を狙います。この頃には背中と腰がおっそろしく硬くなってるはずですから、しばし手をとどめてストレッチ。ふと魔が差して「ビールでも呑みにいかへん」てなLINEメッセージを見て、「こちとらそんな場合じゃねーんだよ」と舌打ちしつつ悔し涙を流すのもこの頃であります。なんだか淋しい心持ちになったらFMラジオをちょいと付けてみるのもよいでしょう。

⑧注水。時候がいい、といったのは水道からホースで直接じゃぶじゃぶ入れられるから。冬だと半分の換水さえ台所の蛇口で湯(温水)を汲まねばいけませんから、これはだいぶん助かる。さて、この時の注水は三分の一程度で止めておきます。

⑨いったん注水を休止して、水草を植え込み、石・流木を配置する。専門の雑誌・サイトに出るようなアクアリストの方々には及びも付かず、“なんとなく不規則=自然らしく”程度の配置。ま、どうせ美容院行きたての頭と同じ伝で、やったその日はどうせ硬い眺めになってしまうのだが。景色が落ち着くのには最低半月はかかる。

⑩残りの注水→水質調整剤投入。最後に種水を戻す(でないとバクテリアが死滅する)。

⑪細部の修整の後、魚・エビを戻す。水も入れ換わり、眺めも一新した我が家に戻っても特に感激した様子もなく、魚は以前と同じようにひらひらひらひら泳ぎ、エビはゆらゆら這い回るのみ。「熱帯魚なんて、なつかないし、つまらないでしょう」と言った人がいたが、それがいいのである。せっかく独りの巣に戻ってまで愛情たっぷりにペットがすり寄ってくるなぞ、考えてもうんざりする。餌をやるときだけ一散に集まってくるのを眺めるくらいが丁度宜しい。

 これで完成です・・・水槽ひとつは。この日はこの後、室内の水槽ふたつとベランダのメダカ鉢のメンテナンス(「天地創造」まではゆかず。せいぜい「ご一新」というところ)があり、次いでサワガニの水換えがあり、最後にプランターへの苗植え付けがあった。今年はキュウリとセージ、タイム、それにルッコラルッコラは初挑戦。まあせいぜいがベランダのプランター、苗も出自正しいコーナンのものではあるけれど、毎日あれこれ気を配り、ささやかながら収穫を愉しむことが肝腎なのです。メダカやサワガニは食用ではありませんが。

 植え付けを終えた後、これは何故か毎年春になると伸びてくるミントの葉を摘んでシロップを作る。ミントはそうそう使うものではないし、かといって放っておくと、水をやった際のはね返りからウイルスに感染するのか虫害のせいか、葉に白い斑がはいってちぢかまり、見ていてなんだか可哀相なのである。いくら摘んでもどんどん葉が出るものなので存分に使ってシロップにする。紅茶に使ってもいいけど、牛乳に入れたり、ウィスキーの炭酸割りに少し混ぜたりすると割合いける。

 さてミントを摘む頃には、ラジオではすでに『NISSAN あ、安部礼司』の次の番組が流れている。なんだか外に食事に出るのも億劫な・・・買い物に行くのも面倒だし・・・と冷蔵庫の食材でやっつけてしまう。

○芋かつお・・・前日鰹の片身を買って、半分を刺身で食べた(鰹は「造り」と呼ぶとなんだか似合いませんね。やはり関東の魚なのか)。残りは生では嫌だし、かといって煮付けも妙なもんだしねえ。生節ちゃうんやし。方針定まらぬまま何とはなしに酒蒸しにし、身をむしってみる。胡瓜もみと辛子和えには出来るが、さらっとし過ぎている気がする。つくねいもの使いさしもあったので、擂り鉢で擂り、それを辛子和えにかけた。上には火取ったばかりの海苔をたっぷり揉んで。途中、池波正太郎の本でこんな料理の記述を読んだことがあるような、と思ったけど確かめず。自分であれこれ思案するのも愉しいもの。出来映えは、悪くなかった。味よりも触感の重なり具合、というかずれ具合を賞美すべきひと鉢か。冷酒がありゃなおのこと良かったんだろうがな。
○鰯の唐辛子味噌・・・大羽鰯をおろして酢で〆め大根おろしで食った、これも残り。一日経つと酢が効きすぎているので、若布と一緒に唐辛子味噌(赤味噌に煮切り酒と鷹の爪と胡麻を混ぜて擂る)で和える。
○茗荷と茄子の塩もみ・・・鰹節を粉に揉んで混ぜる。
以上で缶ビール二本。普段ならここでおつもりか、酒・焼酎・ウィスキーに切り替えて呑みつづける。今日は朝から動きづめだったし、偶にはいいかと飯にした。

○豆ご飯・・・新たに炊いたのではなく、冷や飯を温めたのに、別に炊いておいてあったうすいを混ぜたもの。豆はなんでも新鮮なものを剥きたてなら塩茹で以外は勿体ないが、これも二日目なので薄味の出汁で炊いたのを出汁少しも一緒に混ぜる。初めから炊き込んだ時の香りはないけど。
○鶏皮と大根の吸い物・・・皮は焼き目を付けておく(脂も落とすわけ)。大根は繊切りに。塩と酒で調味し、薄口で軽く香りを添える。木の芽をどーんと盛る。これもプランター育ちの山椒がどんどん葉を出すので、最近は何にでも木の芽を入れてしまう。
○沢庵・・・そろそろカビが入る時季なので、樽から残りを全部引き上げた。昨年以上に塩を効かせて作ったため、本当に一切れか二切れで充分。漬け物はどうせこういう食べ方なんだから、減塩する必要もないと思うがね。

 さて次に鯨馬ヤーウェが「創造」するのは、八月かそれとも九月ころになりますか。 


まだまだカタイ。
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