神も仏もある世界

 古本市などで四天王寺には割合行くけど、天王寺公園の方は随分久しぶり。花博の跡地が「天しば」なる施設に改装されていた(のを初めて知ったくらいのご無沙汰)。名前の通り芝生が長く伸びているだけで、へんにアトラクションなど置かなかったのが気持ちいい。陽光の下、老若男女がのんびり緑の上でくつろいでいる。ここら辺もだいぶん雰囲気変わった・・・と思ったが、帰りしに通った地下街の入り口ドアの注意書きにいわく、「売春の客引き禁止」。やっぱり本質は変わってないのであった。


 目当ては大阪市美術館の『木×仏像展』。「飛鳥仏から円空へ 日本の木彫仏1000年」という副題が付く。樹木の聖性については一度本ブログでも感想を綴ったことがある(「王としての樹木」)。ブツオというほどの仏像好きでもない人間が大阪くんだりまで出かけたのはひとえに「木」に惹かれたからだった。


 概ね制作年代順の展示。いちばん面白く観られたのは二番めの部屋で、ここには八〜十世紀の作が集められている。ごく初期の仏像の尊容はアフリカやユーラシアの女神像に近く、古拙な造作がむしろ、「聖なるもの」を直接的に感得するためのいわば依り代としてふさわしい。それに対して江戸はおろか平安でも後期の像になると、技芸の細緻になった分、聖性より人間的な暖かみが見る者には印象づけられる。その中間にあたる八〜十世紀では、ホトケの超越性と樹木の霊性が均衡、というより拮抗している感じ。と書くとまことに荒っぽい分析で恐縮ですが、たとえば唐招提寺の木像薬師如来立像。がっしりした体躯を翻波式の衣文が包む。特徴的なのは顔つきで、礼拝(見物)する者の視線を厳しく退ける。といっても、聖林寺十一面観音像のように人間世界から超絶した異空間に浮遊しているのではなく、彼岸の存在としか言いようがない何かが、しかし生々しくここにあって、そして我々のまなざしと彼のまなざしは決して交錯することがない、そういう趣なのである。「救いは確実に存在するのだが、しかしそれは我々のためではない」(カフカ)とでも言おうか。


 それにしてもこの、ほとんど重苦しいほどの存在感。塑像や金銅ではこうはいかなかっただろう。すなわち山中にすっくと立って営々と生の歳月を重ねてきた樹木だからこそ、圧倒的な力の放射を感じられるのだろう(この薬師はカヤの一木造)。


 収蔵する寺といい、八世紀という年代といいやはり天平文化に分類するのが実証的には妥当なのだろうが、受ける感銘は次の弘仁貞観期の仏像のそれに酷似する。と同時に、自分が弘仁貞観仏に一等惹かれる理由も何となく分かったような気がする。日本文化史において、超越はこの時期、確実に認識されていた。何も荒野を覆う天空の彼方にいる神だけが超越的存在というわけではない。


 ロビーには、木彫の材料となる種々の木の見本が展示されており、面白い。槐や桂の木目のうつくしさは息を呑むほどである。こういう木で食卓や椅子を作れたらなあ、と考えてしまう末世濁世の不信心の徒。


 美術館を出たのは昼過ぎ。大阪に出る前、三宮『こおり屋bambu』で枇杷のかき氷を頂いた(竹中さん、ご馳走様でした)。きめ細やかな氷といい、枇杷のコンポートのさわやかな香りといい、充実したものでした。甘さは控えめなのに、なんだかお腹がいっぱいになった。夕方までもう少し歩いて腹を減らそう。


 という魂胆で、美術館隣の天王寺動物園へ。二十年くらい来てないのではないか。五月の昼下がり、人間も気だるくなる時間帯に、人間よりはるかに優雅な獣たちは大方昼寝の最中。元気よく動き回ってる姿も無論いいが、だらーんと伸びている恰好はこれで結構見物になる。個人的には大好きなレッサーパンダのしどけない寝姿を見られて満足。ひとり(?)チュウゴクオオカミの若いのが水場でばしゃばしゃと跳ね返して気を吐いていた。


 展示休止の檻も多く、また全体になんとなくくたびれたような印象だったが、植栽にはかなり気を配っているのではないか。整えすぎて白々しくもなく、投げやりな感じも与えずに上手に樹木が配置してあって、ぶらぶら歩くのに丁度良い按配。まあ、のんびり回っていて、時折JRやら阪神高速やらの轟音が文字通り天から降ってくると一気に索然となるのであるが。


 夕食は神戸に戻って、元町の焼き鳥屋に入る。竹中さんが昨日(正体を隠して)食べに行ったとのことで、『いたぎ家』で遭遇した竹中さんに教えてもらったのである。種類も多く、焼き加減もよろしく、なにより小体なので落ち着いて食べられる。今度ぜひ焼き鳥好きの友人を連れて行こう。

 日中陽の下を歩き回ったせいか、冷酒六杯飲んだら一気に疲れが出て、どこにも寄らず家に帰って熟睡。ま、健康的な休みということになるんだろうな。

気を吐いてます。
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せせらぎ、始めました。
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