たつぷりと象の屁をひる日永かな

 王子公園に出るついでがあったので、久々に動物園に寄ってみた。コロナ騒動で、屋内閉館のところが多いために入場無料。そこそこ親子連れでにぎわっていたのは慶賀すべきだが(帰りにはどこかのお店で食事していきましょう!)、熊のボーといい、レッサーパンダのガイアといい、老いの衰えのあらわなのに哀れ、いや、「もののあはれ」をおぼえる。

○村岡晋一『名前の哲学』(講談社選書メチエ)・・・面白かった。古代ギリシャからの「名前」についての学説史の整理のようなつくりだが、名詞、ことに固有名詞がこれほど哲学の”問題児”扱いされてたとは知らなんだ。なかでも著者が専門とするドイツ・ユダヤ系の思想家(ベンヤミン、ローゼンツヴァイク)の論理が刺戟的。神の名前の位置付けも面白く読めた。今回いちばんヒントをもらえた本。名前こそが、地域・時代を越えて、見知らぬ人々(圧倒的な数の)と共感・対話できる秘鑰なのだ。震災でいのちを落とした方々のことに思いいたらざるをえない。
伊藤之雄『元老』(中公新書
西村義樹野矢茂樹言語学の教室』(中公新書)・・・哲学者が認知言語学に挑む。面白い学問だけど、文化本質論に陥りかねない危うさもあるね。
○桑木野幸司『ルネサンス庭園の精神史』(白水社
○マルコ・ピエール・ホワイト、ジェームズ・スティーン『キッチンの悪魔』(みすず書房)・・・イギリス人シェフ(最年少三つ星獲得!)の自伝。かなりトガった人格だけど(顔もコワイ)、根本が真面目なひとなんでしょうな。なんだか好感がもてる。
○ヒロ・ヒライルネサンスバロックのブックガイド』(工作舎)・・・わたしこの人のファンなんです。半分以上は読んだことある本だったけど。各書の目次を載せてくれているのがうれしい。
渡辺一夫ヒューマニズム考 人間であること』(講談社文芸文庫
○麻生繁『日本料理一汁三菜』(光文社)
○島谷宗宏『京料理炊き合わせ』(旭屋出版)
○神原正明『ヒエロニムス・ボス』(勁草書房
ロジェ・カイヨワ『文学の思い上り』(桑原武夫訳、中央公論社
ピーター・メイル『南仏プロヴァンスの25年』(池央耿訳、河出書房新社)・・・メイルの遺著になるのかな?才筆ぶりがすっかり枯れた感じ。
ピーター・ホール『都市と文明』(佐々木雅幸訳、藤原書店
正津勉『京都詩人傳』(アーツアンドクラフツ)・・・天野忠の肖像が面白い。
○『龍蜂集』(国書刊行会)・・・澁澤龍彦が遺したメモに拠る泉鏡花選集(全4冊)。選択には?という部分もあるが、ともかく造本・版組みが素晴らしい。じつに素晴らしい。
○島内景二『和歌の黄昏 短歌の夜明け』(花鳥社)
○デイヴィッド・B・モリス『痛みの文化史』(渡辺勉訳、紀伊國屋書店
○伊東剛史・後藤はる美『痛みと感情のイギリス史』(東京外国語大学出版会)
○南条竹則『ゴーストリイ・フォークロア 17世紀〜20世紀初頭の英国怪異譚』(KADOKAWA
三浦哲郎おろおろ草紙』(講談社
武藤康史『文学鶴亀』(国書刊行会
東雅夫下楠昌哉『幻想と怪奇の英文学』1・2(春風社)・・・東さんの名前があるからてっきりアンソロジーだろうと思って手に取ると研究者による論文集だった。それはいいのだが、巻末インタビューで「幻想文学とは」にトドロフの定義を出してきている方がちらほらいるのに驚いた。まだトドロフですか。新しけりゃいいというもんではないけど。
○戸矢学『古事記はなぜ富士山を記述しなかったのか』(河出書房新社)・・・風水の本でした。
○ルイス・ダートネル『世界の起源』(東郷えりか訳、河出書房新社)・・・形而上学の本ではなくて、地理・気候条件がいかに文明・文化の歴史に影響したかを説く。ま、これも決定論になずみがちな論調なのですが、なにせ地球史レベル、つまり何十万何百万年という規模の時間をあつかっているから、読んでて気がせいせいする。
○原田英代『ロシア・ピアニズムの贈り物』(みすず書房
○倉本一宏『公家源氏 王権を支えた名族』(中公新書
○杉本圭司『小林秀雄 最後の音楽会』(新潮社)・・・晩年はモーツァルトでもベートーヴェンでもなく、ブラームスに親炙していたそうな。つくづく人を煙に巻くのが好きなオッサンや、と改めて辟易する。