素人包丁・月見の巻

 一気に秋らしくなったので、今年の名月はそれらしく眺められたのではないでしょうか。もっとも、せまじきものは宮仕え、当日はあり合わせで酒を暖めた程度。その代わりに、二日遅れの月見料理、中秋の懐石ごっこで一人愉しんだ。

 

 以下膳組の手控え。

 

【飯・汁・向】ひと月ぶりくらいに飯を炊いたので少し固め。こちらの方が好みではあるが、懐石の一文字はやはり所謂「びちゃ飯」でないと感じが出ない。汁は小芋六方・おくら・塩蕨、吸い口はへぎ柚。南部の玉味噌。向は鱧皮と胡瓜もみ。三杯酢の酢には酸橘をしぼって。

 

【椀盛】小鯛一塩・焼き茄子(白茄子の皮を剥いて)・干し椎茸・三度豆・生麩(胡麻)。吸い口は柚輪切り。

 

【焼物】鶉の山椒焼き。※幽庵地(味醂はごく少量)に漬けておく。焼き上がりに山椒の実(塩漬けしたのを塩出しして)をつぶしてあしらう。

 

 ・・・であとは小吸物、八寸となるわけですが、そもそも濃茶ではなく最後まで酒を呑むための料理であるから、このあと肴(強肴?)が続く。懐石「ごっこ」と称する所以であります。まあね、鶉(これは炉の時季だから十一月以降にのみ用いるべきもの)と胡瓜もみを平気で一緒にしているんだから、そういう点でも完全失格であります。

 

 ともあれこの続き。取りあえず酒肴としておきます。

 

【酒肴(一)】〆鯖。普通に醤油を添えたが、酸橘の汁と大根おろしと山葵を混ぜたので和えたら俄然「らしく」なった。

【酒肴(二)】海老と無花果胡麻和え。敬愛する『玄斎』上野直哉さんの本(『四季を和える』)から取った。海老は車海老を塩湯がきして殻を剥いておく。胡麻は練り胡麻白味噌・淡口・砂糖・出汁を合わせたもの。無論師匠(と呼ばせてください!)の足許には及びもつかねど、和え衣のこくが無花果の甘さをぴしっと抑えて、不思議と肴になります。

【酒肴(三)】子持ち鮎の煮浸し。炙って焼き目を付けてから、番茶で炊き、そのあと濃口・酒・ちょっぴり味醂・生姜でくっつりするまで。

【酒肴(四)】障泥烏賊造り。梅肉和えと酒盗和え(酒を入れて煮きる)とで。三つ葉を細かくしたのを混ぜる。かぼすもしぼる。

【酒肴(五)】柿と栗の白和え。柿は角に切って海水程度の塩水に浸けておく。栗は茹でて半分ほどつぶす。甘味は付けない。なのでこれもやっぱり肴になる。

【酒肴(六)】蛸の小倉煮。蛸は別に湯がいておく。小豆を煮て柔らかくなったら蛸の一口切りを加え、濃口・酒・砂糖少々で炊く。食べしなに露生姜。

【酒肴(七)】蟹と菊の酢の物。蟹はワタリ。塩蒸しして身をせせっておく。湯がいた干し菊と混ぜ、たっぷりの柚子果汁と淡口、隠し味程度の山葵。

 

 あとは折良く届いた青森の毛豆(味が濃い)と糠漬け・沢庵。酒はひやおろし三種で七合ほど。夕景はやくに呑みだしたのですが、気がつけばとっくに日付も変わり、慌ててベランダに月を探したことでした。

 

四季を和える―割烹の和えものの展開

四季を和える―割烹の和えものの展開

  • 作者:上野 直哉
  • 発売日: 2013/02/01
  • メディア: 大型本